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□魂は虫食いだらけ
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月明かりが雲間から差し込み、紫色の闇を優麗に照らし出す。

優麗というよりは幽麗という方がいいような、そんな世迷い言を
本気で口に出しそうになるほどに、不気味な美しさを帯びた月夜の日のこと。

妙に目が冴えてしまい寝付けず、何度目かになる寝返りをついてくぐもった息を吐いた。

ここ何日か熟睡できていない。

睡眠というものは人間にとって必要不可欠であるはずだ。

体は限界を訴えて手足は棒のようだし、精神的にも辛いのだが。

何故寝付けないのだろう。

幾度となく繰り返してしまう自問自答は、もう答えなど出せないほどに問いてしまっている。

それなのにどうしてもやめられない、その事実にまた苛立って眠れないという、そんな負の連鎖。


「…………のど、渇いた」


考えを断ち切りたくて頭を軽く振り払い立ち上がり、行動理由を明確にすべく小声で欲求を呟いた。

蛇口をひねって、グラスに水をそそいでそのまま一気に飲み干す。

ぷはっ、小さく出た声に我ながら恥ずかしくなって行き場のない視線がシンクの辺りをさ迷った。

誰が見ているわけでもないのに、何が恥ずかしいのだろうか、自分は。

息をついて時計を見上げれば、草木も眠る丑三つ時。

冗談じゃない、明日は久々に姉さんと会う予定があるのに。

急いでベッドに戻るが、やはり依然として眠れそうにない。

無難にメリープの数でも数えるべきなのだろうか、だけれどこんな方法で熟睡できるのはゴールドくらいだろう。

そういえば前に奴は、小難しくタイプ相性や状態異常について書いた論文は
一行読んだだけで眠ることができる便利グッズだと言っていた。

しかしまあ、クリスが全力で止めてきたからあれは俺を騙す嘘だったのだろう
……それにしてはヤケに自信たっぷりな風だったが。


「…………眠れない」


運動が足りないわけでもない、足りないのは睡眠時間だ。

それなのに、どうして。

目を瞑っても過ぎてくれない秒針の針、昇らない太陽。

何年か経ったのに、ふと思い出したのは姉さんの腕の温もりだった。

こんなに寝付けない夜は、抱き締めてくれた。

今になっては到底不可能なそれは、父親が明らかになっても母親が分からない蟠りに似ていた。

俺は、自分を受け止めてくれる温もりを欲しているのだろうか?睡眠欲以上に?

答えなど出ず、不貞腐れたまま思い返す、温もりならあの子たちに求めたら?

姉さんは言うだろう。

あなたはもう一人じゃないんだから、と笑いながら。

確かにゴールドやクリスは俺の求めた温もりだ、でも姉さん。


「俺は最初から、一人だったことなんてない」


いつだって姉さんが味方についてくれていた。庇ってくれていた。

他の誰でもない姉さん。

こんな関係が普通だなんて思わない、物心つく前から助けてもらえたから、刷り込みなのかもしれないとも自分でも思う。


「それでも、俺は」


今は自分を受け止めて、優しく姉さんに背中をさすってもらいたいんだ。

なんて、姉さんを困らせるだけだね。

分かってる、分かってるけど。

逆らえない力にまぶたが重くなって、閉ざしてしまう。

明日、姉さんに会ったら寝てしまうかもな、なんてぼんやりと思った時にはもう死んだように眠り出していた。


 魂は虫食いだらけ


  title by:休憩






















シルバーが書きたかっただけです、深い意味もなくシルブルのフラグもありません。
不眠症っぽいのはノリです。
こちらも何の意味もありません。

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