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□世界を騙す大きな片思い
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セトマリ






犬か猫か、って言うなら私は断然、犬派だな。

だってセトは犬みたいじゃない?

そんな他愛ない話をしていると、モモちゃんは笑った。


「確かに!セトさんは忠犬って感じがします」


「忠犬? だったらセト、誰に忠誠を誓ってるのかな?」


ううーん、キドかな。

何だかんだでいつもキドに言いたいことも言えてないセトを思い出す。

でも、それはセトが、キドに言ったら怒るだろうとか勘ぐるからであって。

カノに対しても同じで、でもそれもちょっと違うよなあ。

忠誠って難しい。

一緒になって造花作りの手を止めて考えてくれているモモちゃんに、そんなに考えなくていいよ!?って
慌てて言ってみたけど、セトさんが忠誠を誓う相手……誰だろう、なんて呟きながらまだ考えてくれてる。

ただの思いつきだったから、そんなに深く考えてくれなくっても全然いいんだけどなあ。


「あ!」


ポン、分かった!と言うみたいに手を打ってモモちゃんは満面の笑みで答える。


「マリーちゃん!じゃあ、ないかな?」


「ふ、ふぇぇ!?わっ、私!?」


そんなことないよ、って否定するけどモモちゃんは満足そうに造花作りに戻ってしまう。

セトが私に忠誠を?

そうだったら嬉しいかも……ううん、違うな。

セトはいつも私の手を引いてくれるの。

優しくて、こんな私でもここにいてもいいんだよ、って笑ってくれる。

私の方が忠誠を誓いたいくらい。

だからセトの方が忠誠を誓うのはおかしいや。

モモちゃんは一生懸命考えて答えてくれたけど。

曖昧に笑い返せば、モモちゃんは次の話題に移ってくれる。


「だったらカノさんは絶対ネコですね!」


カノが聞いたら「目だけで決めたんじゃないの?」って笑いながら怒りそうだけど、
でも分かる!聞かれたくないなあ、モモちゃんとの話は楽しくって時間がどんどん過ぎていっちゃう。

嬉しくって、気付いたらお日様も沈んでしまっている。

モモちゃんと入れ違いになるように帰ってきてくれた長身の彼に、思わず抱きついてしまった。


「お帰りなさい、セトっ!」


「ただいまっス!マリーはまだまだ元気いっぱいっスね」


えへへ、そうかな?

モモちゃんが帰るのを見送ってセトを私の部屋に連れていく。

シャワー浴びたいんスけど、なんて、可哀想だけど聞こえないフリ。

だってセト、今朝も私が起きる前からバイトに行っちゃっていなかったんだもん。

セトの話もモモちゃんとしたし、せっかくここにいるセトともっと話がしたいんだ。


「あのね、今日はモモちゃんと、セトは犬みたいだねって話をしたんだ」


「俺、そんなイメージなんスか?」


「だってセト、」


私に笑顔を向けてくれる優しい金色の目の彼に、やっとぴったりの言葉が思い付いた。

背が高くても、格好よくても。


「私の視点まで下がってくれるから」


セトは私の立場で考えたりしてくれるんだ。

キド相手ならキドの立場に。

カノ相手ならカノの立場に。

それぞれの高さに見合う位置まできて、一緒に悩んでくれる。

隣まで来て、寄り添って助けてくれる。

慰めてくれる。


「それは猫のすることじゃ、ないもんね。
 だからセトは、犬みたいだよ」


「猫だって、マリーが知らないだけで近付いてきて刷りよって来て、助けてくれるかもしれないっスよ?」


「う〜……ね、猫みたいなのはカノだもん!カノはそんなこと、私にしてくれないもん!」


そうかもしれないっスけど、まゆげを下げて苦笑い。

困ってるのかな、だったら無理して笑わないで、セト。

カノみたいに欺こうとなんてしないでよ。


「飯ができたぞ」


がちゃ、ドアノブをひねって小さな隙間からキドが声を掛けてくれた。

はあい、応えてセトと一緒にリビングに向かう。

ご飯がすんだら俺は風呂に入るっスからね、セトが宣言して、残念に思った。

けど、さすがにもう止めるのはひどいよね。

しぶしぶ頷いて、手を握った。
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