いろいろ

□哺乳類、二足歩行、得意料理はオムライス、なんならきみと喧嘩だってできるしその後仲直りのキスとかしたり、どうかオススメ物件の僕はいかが
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(ダイ嬢)

※書きたいところだけを書いたのでいつもより展開が急です



彼女に限らず、お嬢様がお嬢様たるゆえんというのは、いってしまえばかなりの財力があるからだと思う。
同じ気もするけど別の言い方をすると、名家に生まれたからお嬢様なんだとも思う。
別にそれが悪いとかそういうことじゃない、生まれは自分では決められないものだから。
そこで才能を開花させ、その名に恥じぬような成果を上げたのは彼女自身で、それはとても立派なこと。
ではなぜこんな話をしだすかというと、それは彼女がただの女の子ではなくてお嬢様だから、許嫁ってものがいるんじゃないかなって、そんな風に思ってしまったものだから。





昼下がりのことだった。
るーたちと日向ぼっこをしていたんだけど、パールに呼ばれてオイラは目を擦りながらるーの背中から下りた。
気持ちのいいお天気でお昼寝には最適だったろう、と思ってしまうだけに名残惜しいが仕方ない。
パールは腰に手を当てていてオイラの顔を見るなりため息をついた。
あれ、もしかして怒ってる?オイラ何かしちゃった?

「ダイヤ、いい加減そうやってダラダラ過ごすの何とかしろよ……」
「え〜?オイラ別に、ダラダラしてないよ?」
「……まあいいや。ダイヤの所にも招待状、来てるだろ?」

招待状?そんなものあっただろうか。そもそも何の。
頭の上にはてなを浮かべるオイラにパールは「お前なあ」と何か言いたそうに呟いた。
続きは特に言われなくて、パールはがしがしと頭を掻いただけだったけれど。

「お嬢さんと許嫁の婚前パーティーだって。ぜひダイヤと一緒に来てくれって、俺のには書いてあったけど」
「婚前パーティー???」

知らない、オイラそんなの全然知らない。
ほら、と差し出されたパール宛の招待状を見せてもらうとそこには確かにパールの言った通りのことが書かれている。
何それ、オイラだけ、知らなかったよ?
さすがにオイラが嘘をついているわけではないと分かってもらえたようで、パールもパールで困った顔をした。

「ダイヤの招待状は無いなんて変だな。でも俺のには書いてあるし、どうする?」
「うーん、」

悩みどころだ、行っていいものなのだろうか。
それに婚前パーティーなんて行きたくないなんて気もしてしまう。
おめでとうって、ちゃんと言えなきゃ、ダメなのに。
今、お嬢様に会ったら違うことが口を突いて出てしまいそうで怖いんだ。
だってずっと、会ったときから彼女のことが。

「オイラには招待状、届いてなかったですよって言いに行く。招待されてないからパーティーには行けないけど、これからオイラにだけそういうものが届かなかったら嫌だから」
「……そっか」

パールは何か言いたそうな顔をしたけど、結局は特に何を言うこともなかった。
彼の招待状を返すと、彼は、じゃあ二時間後には迎えに来るから準備しとけよ、と言い残して走って家に帰ってしまった。
すぐに背を向けて行ってしまったパールは何を思っていたのだろう。
人というのは厄介なもので、言わなきゃ気持ちも分からないからオイラは勝手に想像することしかできない。
それでも、一部を除くポケモンとは違い人同士は言葉を交わしてやり取りができるから、まだマシなのかもしれない。
マシなはずなのに、どうしてこうも人同士もむつかしいのかな。
誰に言ったって答えがあるわけもないから、オイラも口に出せるはずもなくて口はつぐんだままにした。





背後でヒールの音が止んだから、振り返るとそこには彼女の姿があって。
できれば今は会いたくなかったなんて思ってしまうオイラは自分勝手だ。
お嬢様はオイラの知らない誰かに手を引かれていた。
螺旋階段の上でお似合いの二人はオイラたちを見下ろしている。

「どうして、あなたがここに……」

彼女の小さな声だった。
ともすれば聞こえなかったろうそれは皮肉にもしっかり聞こえてしまって心を大きく抉り取る。
受付の方にオイラの招待状が届かなかった旨を、話すだけだった。
パールには悪いけどオイラは一人で、すぐに帰るつもりだった。
けれど、彼女の言い方ではまるで、オイラを意図的にこの会合から弾き出していたみたいじゃないか。そんなことって。

「お嬢様、それってどういう意味?」

聞かなくたって予想はつくのに、おめでたいパーティーなのに、オイラの口から出る言葉は震えながらもいつむより鋭くて。
彼女は肩を震わせると俯いた。
向かいの男性は動揺するそぶりも見せない。

「わた、私、あなたにだけはここに、来てもらいたくなくて……」
「…………そう、なんだ」

顔を赤くさせて弁明するように言うお嬢様はいつもと違ってしどろもどろだ。
その上恥ずかしそうで、それはその男性の隣にいるからなのだろう。
目の当たりにするのは確かに辛かった。
立ち去ろうと背を向ける。
この場所があんまりにもダメージを与えてくるから、もうオイラは逃げる以外の選択肢を思い描けなかったんだ。

「待って!」

それなのに彼女が引き留めるから、まだ整理のつききらない心はそれだけで跳ねてしまっていけない。
男性の手を払って階段を駆け下りるお嬢様は泣きそうに顔を歪めていた。
そんな顔しないで、お嬢様には、笑っていてもらいたいのに。
そんな顔をさせたくないから、オイラは今から帰ろうっていうのに。

「痛っ……!」

高すぎるほどのヒールで走ってしまったからだろう、お嬢様はつまずいて、あと少しというところで階段に手をついた。
見れば、靴が駄目になってしまっている。
綺麗に装飾の施されたそれが白い大理石に転ぶ様は、なぜだかとても寂しかった。

「大丈夫?お嬢様、」

近付くのがあんなにためらわれて、彼女の前から去りたかったのに、やっぱりこんな格好で彼女がすぐそばにいるのにそばに行かないなんて、そんなことできるはずがなかった。
しゃがみこんで靴を拾う。
彼女に手渡そうとすると、お嬢様は靴を無視してオイラの手を両手で包み込んだ。

「……このパーティーで、私、婚約を破棄させてもらうつもりだったんです」
「え?」

優しい声色で耳に届くのは都合のいいように聞こえているのではないかと疑う内容。
思わず彼女の顔を覗き込むと、気付いた彼女は嫌な顔せずに、控えめに笑ってくれた。
あの人にももう話してあります、なんて付け足されて螺旋階段に残された男性はうなずいてみせる。
そう解釈しても、いいのだろうか。
直接的には誰も何も言っていないけれど、これで違うのならば何が合っているというのか。

「ダイヤモンド。私は、」
「ちょっと待って!」

今度はオイラが彼女を止めた。
最後まで彼女に言われるというのは、だって何だかあんまりにもオイラばっかし情けない。
カッコのつかないカッコつけだけど、それでも自分から言いたいんだ。
深呼吸をする、オイラたちは互いにエントランスで座り込んでいて、端から見たらどれだけ滑稽だろう。
こんなにも緊張して、真剣なのに、そのことがどこかオイラたちらしくてホッとする。
勘違いから出会ったオイラたちらしい、普通はありそうもないこの状況が。

「……あのね、お嬢様、」

他の人を選ぶよりも先にオイラを選んではくれませんか?
提案のような告白に彼女はちょっと困ったように、幸せそうに笑った。
顔を見合わせると自然と幸せで小さく笑い合えるような、そんな日々はそう遠くない。


 哺乳類、二足歩行、得意料理はオムライス、なんならきみと喧嘩だってできるしその後仲直りのキスとかしたり、どうかオススメ物件の僕はいかが

 title by:深爪
















シメの文が思い付かなくて不完全燃焼です……もうちょっとひねったら良かったかも。
最初はルサで書こうかとも思いましたが、やっぱり料理する男子といえばダイヤだよね!()

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