いろいろ

□閉鎖世界の末路
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(月島)


僕という一個人は閉鎖的な空間で生きていて、これからもずっと生きていくのだと思う。
いつもの場所、いつものメンバー、いつもの日常、いつもの会話、いつもの風景。
代わり映えのしない毎日の中で生きていくのだろう。
そりゃあそうか、そんなにも頻繁に非日常は訪れない。
しかしそんな生活の中にも誤差は生じてくる。
例えばそれは学校だったりとか対人関係だったりとか、学習内容だったりとか。
それも至極当然のことで何だか揚げ足のようにも思えるけれど。
そう、これが揚げ足ならば、イレギュラーなど起こりはしないのだから閉鎖的な空間を生きていること生きていくことは、きっと間違いではない。
現にそう、僕は今日も同じような一日を過ごす。

「おはようツッキー!」
「……おはよ」

玄関前にすでにいた山口に明るく挨拶されることには慣れてはいるものの、僕も同じテンションになれるはずもない。
ぶっきらぼうに手短に返して歩き出した。
山口はというとこいつも僕の反応に気を悪くした風もなく、ごく自然に隣に並んで歩き出す。
そろそろマフラーなんかをつけた方がいいかもしれないな、なんて思いながら白っぽい息を吐くと山口はそういえば今日の授業、と切り出して他愛ない話をする。
毎日同じものを見て、聞いて、それでもこうやって色々と話してくれることはうるさく感じることもあるけれど楽しい。
こいつはあの時そんなことを思っていたのかだとか、もう何年も友達をやってきたのに改めて思うものだから。

「春高が終わったら、三年生はすぐいなくなっちゃうのかな」
「急にどうしたの」
「その、何だかんだでよくしてもらったし、いるのが当たり前みたいに思っちゃってるから。いなくなったら寂しいだろうなと思って。先輩たちや日向や影山も寂しがるだろうなと思ったのもあるけど。いつかはいなくなるって、その方が当たり前だって、分かってはいるんだけどさ」

少し鼻をぐずぐず言わせて山口はアスファルトに向かって照れたような曖昧な笑みをこぼした。
季節の変わり目に体調を崩しやすいところは相変わらずのようだ。
そう思いながらも僕も、ああそうかと妙に山口の言うことに納得していた。
いつかはみんな変わってしまう。変わっていってしまう。
変わってしまうものなのだ、だって毎日誰もが様々なことを思い、悩み、生きているのだから。変わらないはずがないのだ。
そのこと自体を変わらないことなのだと、そうみなして無感動でいようとしているからずっと、世界は普遍なんだなんて思ってしまっていて。

「…………、山口」
「どうしたの、ツッキー?」

僕はこれまで当たり前のように、山口は僕の隣にいるものなのだと決めつけてきていた。
どこかこいつが遠くに行っても、そうなるべき時にそうなったのだと僕は自分に言い聞かせるだけなのだろう。
僕は結局何にたいしても臆病なだけで、傷つきたくないだけなんだ。
山口は律儀にも僕の返答を待っていて、エナメルバッグを背負い直しながら僕の顔を覗き込む。
変わりたくない、変わってほしくない。心底僕は、今のこの時間が瞬間が、好きなものだから。
そう言いはせずに僕はひとつまた白い息を出して、あきれたように口を開いた。

「その言い方じゃあ僕は寂しくないみたいじゃないか」
「!」

山口の息を飲む声がする。
静かな朝の道路は音が少なすぎて互いの出す音しか聞こえないから困る。なかなか相手が応えてくれないというのも。
ぎゅむぎゅむとすでに使い古した靴が変に擦れている。

「そう、だね。そうだ。ごめんツッキー」

噛み締めるように、咀嚼するようにゆっくりと言った山口はそのまま前を向いて続ける。

「さよならは寂しいに決まってるもんね」

自分が三年生になった時に後悔することがないように、俺、がんばる。
山口は宣言するようにそう言って、ぎゅっとエナメルの肩かけを握り締める。
いつか来るさよならを、山口は僕にいつ言うのだろう。
先輩との別れが寂しいというのなら、お前との別れは僕にとって、どれほどの喪失感を与えるものになるのだろう。
僕は少しだけ目をつむって、それからすぐにサッサと歩き出した。

「早く。どうせもう日向たちは練習してるんだろうし、負けないように精々頑張んなきゃ」

たかが部活だけど、これはされど部活で。
悔いを残したくないのなら、ちっぽけな自分のプライドを守り抜きたいのなら、努力しなければならない。
待ってツッキー、なんて言葉を聞きながら僕は先を急ぐ。
悪いけどもう、僕にも立ち止まっている時間はないものだから。
僕という一個人は閉鎖的な空間で生きていて、これからもずっと生きていくのだと思う。
いつもの場所、いつものメンバー、いつもの日常、いつもの会話、いつもの風景。
代わり映えのしない毎日の中で生きていくのだろう。
だけれどこの閉鎖的な空間はひどく脆い。
だからここで生きていきたいなら、このままを望むのなら自分がまず変わらなければならないのだ。
変わらなければ回りが変わりきったその時に、変わらないと思っていた世界は全く別のものに変わりきってしまっているのだから。
僕はこうやって同じような毎日を繰り返すために、今日もまた練習を重ねる。


 閉鎖世界の末路












思い付きのまま書いたので意味不明ですが、こう、月島は小難しく考えてるんじゃないかなと思ったので。
山口は分かりやすく月島に憧れているけれどその実逆もしかりで、月島だって山口に憧れているのでは。
確かにカッコいいのだけれど月島も圧倒的にもろもろ足りていないから、みたいな。

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