いろいろ

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(※すべて捏造です)


人がたくさんいる。桜はひらりひらりと可憐に舞っていた。
あたりの空気を明るいその幸せそうな色に染めるかのように。
しかし私は、第一志望の高校に落ちた人間だった。そんなことで落ち込んでいたって原因は私の学力不足にあるのだから仕方がないは分かっている。
ちゃんと、分かる。分かっているのだけれどまだ割り切れない。
どれほどの時間を受験勉強に割いたのだろうか。
だのに受かったのは第二志望の滑り止めだったなんて。
まだ春のうちに色んなことが一気に起こりすぎていた。

「じゃあもう行くけど、大丈夫?」

私の知らない人が、楽しそうな顔をしてまわりにたくさんいる。
スーツを着こなすお母さんは他のお母さんと一線を画しているように思えた。
お母さんはいつだってスーツを格好よく着こなす。
あのねお母さん、私の入りたかった高校はここではなくて、だから私はどうやったってあんな笑顔を浮かべられそうにないの。
言えそうもない言い訳は舌の上で口から出ずに消えていった。
お母さんはそんな私にため息をついてバッグを肩にかけ直す。
入学式に来てくれただけでも本当なら喜ぶべきことだ。
お母さんは忙しいから。それなのにその上で困らせて、とっても私は悪い子。

「仁花」
「…………うん。ごめんなさい、大丈夫」

上手に顔は見られなかったけれど。
まだ真新しい制服のスカートは手のひらの中でくしゃくしゃにしてしまったから、もしかしたらもう直らないかもしれない。
しわくちゃな制服でこれから三年を過ごすのかと思うと、涙が出てきそうだった。
お母さんは今度は心配そうに息を吐いて、だけれどもすぐに背筋をピンとさせて校門に向かっていってしまった。
新一年生は教室に向かってくださいと、半ば収集のつかなくなったような混乱にある体育館に拡声器越しの声が響く。
私は動かない表情筋に、我ながら小さい子のようで馬鹿馬鹿しいと思いながら人の流れに乗った。
笑顔ばかりがある中で、私はどれほど浮いているだろうか。




一応は進学クラスになっているらしい自分の教室にたどり着いたはいいものの、机を囲んで四、五人で騒いでいるグループが早くも形成されていた。
声をかけたら中にいれてもらえるだろうか。ぼっちなのは辛い。

「…………」

ドアの前でしばらく考えて、結果、やっぱり話しかけるのはやめようと思った。
だって今、私は笑えない。笑えていないやつととりとめのない話をするほどむつかしいことってあるだろうか。
卑屈になっているのは分かっていた。
黒板には出席番号順に座るように書かれていて、事前に配られていたプリントに番号が記載されていたことを思い出す。
中学の時と同じ番号だったことを覚えている。
目を向けて机を数えて椅子を引いて座った。

「そうだ、プリント……」

正直なところ、話しかけると言う選択肢も省いてしまったらすることがなく手持ち無沙汰だ。
ボーッと数秒間、黒板の上の時計をぼんやり眺めてしまってから、机の横に引っ掛けたカバンを膝にのせた。
もうプリントなんか読んでしまっているから完全なる暇潰しだ。
でも何かしていないと、何もしていないと心が折れそうだったから。文字列を追っていく。
背後で笑い声が上がった。
私を笑ったもののように思えてしまって、被害妄想の度が過ぎるが体が強張るのがわかった。文字列を追っていく。
誰も私になど目もくれない状況が、望んだ通りで嬉しいのに悲しくて、寂しい。文字列を追っていく。
文字列を追っていく。文字列を追っていく。




ちょうど雲に隠れていた太陽が出てきたのだろう、カーテンをしていない窓からの光が眩しい。
目を細めながら机に反射する明かりの方へ、顔を上げると開け放たれた窓からは透き通ったような青空が、見えた。
きゃあきゃあとたくさんの人が騒ぐ教室で、私の他に空に注目する人なんていない。
私はこれからも日陰にいて、こうやって、綺麗で暖かいひなたを羨ましいと思いながら見ることしかできないのだろう。
私に勇気はないし度量はないし技術もない。何もない。
再び太陽は雲間に隠れたのか、目がくらむような日差しは掻き消されてしまった。プリントに再び視線を落とす。
さきほどの明るさに目がかすんで、ぱちぱちとまばたきを繰り返すと涙がぼろぼろこぼれていってしまいそうだった。
薄い膜を張る視界はにじむけれど、ひなたに近いから暗さが際立って気づかれやしない。
伸びている影の方が楽しそうにゆらゆら揺れていて、やっぱり私のことを嘲笑うように見えて仕方なかった。
世界中ぜんぶが私を飲み込んでしまうように思えるのもきっと、行き過ぎた被害妄想にすぎないのだけれど。



 世界のかげは繋がっている

 title by:告別

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