いろいろ

□一方通行への反逆
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(キョウメイ)


季節がこんなにも早く過ぎてしまうのは初めてで、ちょっと困惑してしまう。
いつの間にかすっかり冬めいてきてしまった町の風景を横目にビル風に体を震わせながらポケモンセンターに急ぐ。
旅に出て、初めて過ごす故郷ではない場所の秋だから時間が早く過ぎてしまったように思うのだろうか。
少し首をかしげながらもそんなことを考えて歩いていたら知り合いの姿を見かけて思わず「あっ」と声をあげてしまった。
そんなに大きな声ではなかったからか彼女には聞こえなかったようで、そのまま歩き続けている。
小走り気味に先を急いで彼女の肩をたたくと彼女はちょっとばかし驚いたようだった。

「キョウヘイくん!久しぶり、って言っても二日ぶりだけど」
「確かに久しぶりってほど会ってないわけじゃないから、久しぶりって言うのもおかしいかも。それにしてもメイは……元気そうだね」

振り返ってくれた彼女はいつもと変わらない笑顔を向けてくれた。
しかしながらその手に、とんでもないものを持っていたものだから俺は心底ギョッとする。
メイは俺の視線に気付くと、言葉からかもしれないが、ばつが悪そうに照れ笑いを浮かべて見せた。

「え、えへへ。あの、えっと、ヒウンに来たら一個は欲しくなっちゃうというか、だって名物だから。アイス食べるの久々だったし、それにね、オノノクスも食べたいって言ってるみたいにボールを揺らしていたから……」

思い切り目線をあらぬ方に向けて彼女は弁解するも、すぐに言葉のおしりはしゅるしゅるとしぼんで聞こえなくなってしまう。
この寒くなくなってきた中でそれを食べることにはやはり、彼女自身でもどこか思うことがあったのだろう。
体を冷やして体調を崩さなければいいのだけれど。心配だ。

「よかったら一緒にポケモンセンターに行かない?せっかくのヒウンアイスが美味しく食べられないんじゃ勿体ないし」
「あ、ありがとう」

モゴモゴと口の中でしゃべるばかりになってしまったメイに切り出すとホッとしたような表情を浮かべる。
分かりやすいなあと思うとほぼ同時に「そうだよね、ベンチに座って食べようと思ってたけどこの季節のアイスは温かい部屋で食べた方が、いいね」なんて言うものだから笑ってしまう。
キョウヘイくん何で笑ってるの、と真面目な顔で聞かれたって答えられないに決まっている。

「風邪ひかないように気を付けなきゃダメだよ」

だから代わりに僕はため息と共にメイにお母さんのような言葉を掛けたのだった。








「そういえば今さらだけど、サブウェイ以外で会うのはこれが初めてだね」

ポケモンセンターで向かい合って座って他愛のない話をしていると、本当に今さらなことをコーンをサクサク食べながらメイは言う。
人が食べているところを見ると何だか自分も食べたくなってしまってかばんを探っていたところだったのでなおのこと。
単に話題にできることもあまりないから、繋ぎに出した苦肉のものかも知れなかったが。

「ひどいんだけど勝手に、キョウヘイくんって実はサブウェイに住んでるのかもって思ってたんだ」
「え!?何で、そんな」
「だってキョウヘイくん、私が行くと必ずいるんだもん。数日開けても、毎日行っても」

なんだそんな理由かと思うとムキになって怒るほどじゃないかなと思えた。ムキになる方が子どもっぽくて嫌だ。
いや、嫌だって言ったってあがいたって俺はまだ子どもだけれども。
俺は発掘したバウムクーヘンの袋をかばんからふたつ取り出しながら言う。

「それはこっちのセリフ。俺が行くと絶対来るのはメイだろ、毎回びっくりしてるんだからな」
「わ、私はちゃんと家に帰ってるよ!?」
「俺だってサブウェイに寝泊まりしたことなんて一回もないよ!?」

お互いに言い合ってから、なんてバカな会話だと思うと笑えてしまった。
ふたりして笑うのはサブウェイでは何度もあったけれど今いるのはヒウンシティのポケモンセンターで、何だかちょっと変な感じ。
やましいことをしているわけでもないのにドキドキしてしまう理由は下心ゆえか?そうなのか?
自分でも自分のことが分からなくて困る。

「まさかキョウヘイくんに会うとは思わなかったから本当にびっくり。そうだ、せっかくだからポケモンバトルしない?」
「トレーナーとトレーナーは目と目が合ったらバトル、って?」
「うん。キョウヘイくんとはダブルバトルで、味方としてしか戦ったことがなかったなあと思って」

初めて会ったのは件のサブウェイの前で、その次もまたやはりサブウェイだった。
メイはなかなか、というか普通に強いポケモンでバトルをしているから勝てるかどうかも五分五分くらいだけれどバトルの誘いを蹴られるはずもない。
だったら二階のユニオンルームか何かでバトルできたはずだから、とトントン拍子に話は進んでいく。
俺はふたつバウムクーヘンを出したのにもうひとつには手をつけないまま、ふたりで二階に上がった。
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