いろいろ

□一方通行への反逆
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シングルバトル制限なしの勝負の結果、メイが勝った。
メイのポケモンは強すぎると思う、決して俺の方が弱すぎるとかではなくて!
俺は一応、殿堂入りしているのだから、そこそこはバトルは、できるはず。

「ダブルバトルの時から知ってたけど、オノノクスの逆鱗してラムの実を使って、また逆鱗して、ってエグすぎる……」
「キョウヘイくんのユキメノコの目覚ましビンタの方がひどいって!予想外だもん!何でユキメノコに目覚ましビンタ!?」
「それはただのノーマルタイプ対策。ハピナスとかHP高くて倒すの大変だから」

回復待ちの間にも話すことは五万とあって困る。
時間が足りない。そうやって話ながら、そういえばサブウェイでも下車の度にこんな会話ばかりだから、さっきのように普通の話をしたことに違和感を覚えたのかもしれないと思った。
それが正解かどうかは別として。
下心が理由となるよりかはよっぽどマシだ。

「……あのさ、メイ」
「ん?あれ、どうしたの」

意識したとたんに会話はぴたりと止んで、メイは不思議そうに少し首をかしげて俺の目をまっすぐに見る。
まっすぐに見つめ返せる余裕は、ない。

「バトルの話とは一旦また離れちゃうんだけど、いい?」
「いいよ、どんな話?」
「メイの好きな食べ物ってなに?」

数秒メイは停止して、急にぷっと吹き出した。
あははと笑う様子は本当に楽しそうで俺は真面目に聞いたつもりだったのだけれど、まあいっかと思える。なんて単純。

「何事かと思ったら本当に脈絡ないね!好きな食べ物なんてどうして急に聞こうと思ったの?」
「……メイが言ったこと思い出して。考えてみれば、何回も会って一緒にバトルしてるのに俺、メイのこと何にも知らないなって思って」

彼女は笑うのを止めて、そっかとつぶやくとうんうん、とうなずいた。
そういうことかと納得している風に。
バトルの時に何を考えているかはもう、だいたい分かるくらいには一緒に共闘している。
のに、住んでいる場所さえ知らなくて。

「じゃあお互いに自己紹介しようよ。私はメイです、今みたいに呼び捨てで読んでくれた方が嬉しい。好きな食べ物はオムライス。でも甘いものも好き。それから私は、タチワキ出身です」

言ってメイはにこりとまぶしい笑顔を俺に向ける。
キョウヘイくんも、と言われているようでほんの少し照れ臭いような気がしないでもない。

「キョウヘイです。メイも俺のこと呼び捨てで呼んでくれていいよ?俺の好きな食べ物は、えーと、何だろ。割となんでも好き。俺はヒオウギ出身」
「ヒオウギなんだ!結構近くに住んでたんだね、私たち」

でも好きな食べ物が分からないなんて変なの、とクスクスと笑われてしまう。
そう言われても嫌いなものも特にないのだから困る。

「キョウヘイくん、呼び捨てで呼んだ方がいい?」

メイは口の中でもごもごと小さくキョウヘイ、と呼んでくれた。
たったそれだけなのだけれど俺は照れてしまって、一気に上手く話せなくなってしまう。
きっとこれまでにないほどの間抜け面もさらしてしまっているだろう。
いっそのこともう穴を掘って埋まってしまいたい。

「なんか照れるね」

変わってしまった空気を変えるかのようにメイは明るく言って、わざといつものように笑う。
それでいつものように話せたらよかった。
でも、そう呼んでもらいたいと俺は思ってしまって。
それにこうやって想い続けるだけなままなことも、終わらせなければなとやけにしみじみ思ってしまって。

「呼ぶの、無理?」

自分でいいながらこれは意地が悪いと思った。
彼女が無理と言う選択はこれじゃあできない。
言わせるようなものだ。でもこうすれば、少しは。

「無理じゃない、よ。……キョウヘイ」

照れてくれるものだから、意識してもらえるだろうかなんて。そんなことばかり。
汗をかいた手のひらをズボンでぬぐった。

「ありがとう、メイ」

お礼を言ってもメイは恥ずかしそうに目を伏せるばかりだった。
想うばかりじゃなくて、こうやって言葉にすれば彼女はこんな反応をしてくれるのか。
もし未来に、好きだと言えたら。
そうしたら彼女はどんな反応をするのだろう。
いつかそう必ず言ってみせるから、だからひとまず今日は片想いの現状の足掻きはこのくらいにしておこうか。

「今日はありがとう。またサブウェイ以外で会ったらバトルしてくれる?」
「……また負けちゃっても知らないよ?」

まだ友人というポジションの彼女は、照れたままでも茶目っ気たっぷりに俺にそう返してくれた。
いつか恋人にジョブチェンジさせられたら、本当にいいのだけれど。


 一方通行への反逆
















メイの出身がタチワキなのはもちろん捏造です。
別にタチワキであることにたいした意味もない。
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