いろいろ

□絶滅危惧種に人間が登録された日
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(レイエ)


笑えない冗談だと思ったけれどこれは、ドッキリなんて規模じゃない。
権威ある博士が、チャンピオンが、揃って暗い顔でうつむいて首を振る。
何でそんな急に、と思うけれどどうにもならない。
だってどうしろっていうのだ、世界人口がついに百人を切っただなんて報せ。

もうこれ以上見ていたくなくてテレビを消した。
昨日の夜からずっと同じ内容の特番ばかり組まれている。
ラジオもすべてそうなのだろう。
新聞だって見出しに大きく書いてある。
もう嫌だ、そう思って目を閉じると世界は本当にボク一人を残してなくなってしまったかのように錯覚してしまう。
怖い。怖いよ、一人ぼっちはさびしい。
ノイズばかり走る耳に、唐突にトントンという的確なノック音が響く。
そろそろと目を開けて扉を開けると、そこにはレッドさんが立っていた。

「よ!イエローは元気みたいだな。よかった」

彼が嬉しそうに笑うものだからボクは彼に掴みかかってしまう。
だってヒトがどんどん減っているんだ。悲しくないんですか?
どうしてそんなに、嬉しそうに笑えるんですか?

「よくないですよ!もう、百人もいないんですよ!?ボクたちヒトは、絶滅の一途をたどるんです」
「はは。そうかも、しれないな」
「どうしてレッドさんは笑っていられるんですか!」

朗らかに言う様は出会った頃と何一つ変わらない。
平然としている彼に当たり散らすばかりのボクは聞き分けのない幼子のよう。
掴み掛かった手を離してうつむくとレッドさんはボクに笑ってみせてくれた。
でも吐く言葉はどうしたって冷たい調子をはらんでいる。

「さあ、どうしてだろうな。俺には肉親もいないし、そもそも失うかもしれない大切な誰かがいないからかもしれない」

大切な誰か。少しさみしそうに言う彼にボクの方が悲しくなる。
分かっていたけど、彼にとってボクは「大切な誰か」にはなり得ないらしい。そうはなれないらしい。
どうして、と思わなくもない。
掴みかかって言っておいて、調子がよすぎるとは思うけれど。

「でもレッドさん、ボクを見て元気そうでよかったって、そう言ったじゃないですか。レッドさんには元気じゃなかったらよくない人が、いるんじゃないですか」
「……それもそうかもしれないな」

真剣な顔をして悩み始める彼は頭がいいからボクに言われるよりも早くにそのことに気づけるはずだと思うのに。
やはり彼でも自分の身の解釈はむつかしいのだろうか。
ボクじゃないその「誰か」とレッドさんにはせめて、最期まで幸せな時間を過ごしてほしい。
ヒトの消え続けるこの世界で彼に最期まで、笑っていてほしいと思うから。
誰かを好きになるこの気持ちの温かさを、知ってほしいから。

「でもさ、やっぱり悪いけど、俺はこんな状況でも笑えるよ」

へらりと表情を崩した彼はそう言ってみせる。
ボクには分からない。ボクは笑えない、ボクは今にも泣いてしまいそうだから。
人類の悲しき宿命じみた末路への不安と、唐突に訪れたボクの恋心の終結とがいっぺんに来てしまうから。

「だってほら、イエローは今、元気そうだから」
「え?」
「イエローが元気そうだから」

繰り返された言葉に、瞳の縁にうずくまったままだった涙が顔を上げた刹那に散っていった。
それはどういう意味ですか。
それって、そんな、好きだとか恋しいとか、自覚なしに伝えてくるのはひどいじゃないですか。
これじゃあさっきより、ずっとずっとひどいです。
ひどすぎてボクの顔も、歪んでしまうくらい。

「レッドさん」
「何?」
「レッドさんはひどいです。ひどいけど、きっとずっと嫌いにはなれませんね」

ボクが言うと彼はきょとんとして、よく分かんないけどありがとなと言って笑った。
からりとした笑顔だ。
明るくて優しくて、この人からは笑顔が絶えない。
あんなに沈んでいた気持ちも今ではずいぶん変わったもので、ボクはすっきりとした気分でレッドさんの帽子を取った。

「せっかく来てもらったのにお茶も出さないままですみません。座ってください、すぐに持ってきますから」

言いながらキッチンに逃げるのは悪いことじゃないはずだ。
彼は好意に疎いけど自分の場合もそうなんだな、なんて思いながらお湯を沸かす。
紅茶の入った缶を開けると、ふわりとどこか甘いような恋の香りがした。
レッドさん、早く、人類が消えてしまう前にボクの想いとボクへの想いに気付いてください。
温かなお揃いのカップにかちゃりと小さな音を立てて、ボクの願いはこうして込められた。
その願いにか関わらず明日も明後日もレッドさんが笑う限り、ボクは幸せでいるんだろう。



 絶滅危惧種に人間が登録された日

 title by:亡霊















レイエというかイエローを書くのがが久々すぎて一人称を間違える事件が多発しました。
もしもまだ直っていない箇所があったら申し訳ありません……。

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