いろいろ

□指紋だらけのレンズでは何も見えないだろう
1ページ/2ページ



(ブラックとベル)

※学パロ+ベルはメガネ


その日の朝いつもよりずっと早くに目が覚めたのはきっと、緊張があったからだと思う。
いつもなら出たくないのにじっとしていられなくて、私は布団から出て上着を手に部屋を出た。
音を立てないように階段を降りて、ちょっとの罪悪感を胸にゆっくりドアを開けて、鍵を閉めた。
広がるのはまだ夜のように暗くて冷たい空気のしんとした世界。
一歩足を踏み出すと、幼馴染みと一緒に昔、一歩を踏み出したことが思い出された。
さて、どこに行こう。
そう思いながらあてもなく歩いていたつもりだったのに、何故か足が勝手に向いていて気付いたら、中学の時に利用していた通学路を歩いていた。
ここを歩くなんて懐かしい。
もうここを使わなくなってどれくらいになるだろう、周りの風景も少しづつ、少しづつ変わっていてその度に過ぎ去った時間が胸に刺さる。
信号を渡れば学舎の全体がほぼ見えた。
当たり前だけれど校門は閉まっていて、いつ取り付けられたのか傍に「防犯カメラ作動中!」の札が掛かっている。
ドラマみたいに都合よく中に入ることなんて無理なようだ。
仕方がないから校舎のまわりを見て回ろう。
あの教室であんなことをしたなあ、あそこでは二人が喧嘩しちゃったんだっけ。
体育祭ではみんな一生懸命走ってバトンを渡してくれたのに、私が台無しにしちゃったんだよなあ。
思い出されることは無限とあって、だけれど思い出しきれないものもあって。
ここで色んなことがあったんだ。
私はここからいなくなって、そして今日、その場所からも旅立とうとしている。

「大きくなっちゃったんだなあ……」

校舎の影から上がった太陽がまぶしい。そろそろ私も帰ろうか。
懐かしくも新しい風景を見ながら私は太陽に背を向ける。
すれ違う人に学校指定のジャージを着ている日とが増えてきた。
不揃いのエナメルバックが、私は運動部だったわけじゃないのに懐かしい。
彼らはそうなると、私の後輩なのかな。
家に帰るとお父さんはまだ起きていなくて、キッチンにはお母さんの姿だけがあった。
ただいま、と言うと早起きねとお母さんは驚いて、どこに言っていたのと尋ねる。

「学校だよ。中学校に行ってきたの。何だかちょっと、体を動かしたくなったから」
「そうだったの。でもベル、急がなくて大丈夫?」
「今日は卒業式だもん。九時に集合だから大丈夫だよ」

卒業式に遅刻なんて大問題だ、そんな失敗はしない。
笑って返すとそれならいいんだけど気を付けてね、とお母さんも笑った。

 *

余裕を持って乗った電車は人が少なかった。
席も選びたい放題なのは中途半端な時間だからだろうか。
お母さんはお父さんと後から一緒に来ると言っていた。
でも高校の卒業式って両親共に来る子は少ないみたいだからちょっと恥ずかしい。
そんなことを思いながら何となく歩いて、車両間を移動するとそこには端末片手に面白く無さそうな顔で頬杖をつくブラックがいた。

「ブラック!同じ電車に乗るなんて珍しいね。どうしたの?」
「あ、ベル。いや、チェレンが代表で表彰されるから先に行くって言ってたのを忘れてて」
「そっかあ、だからそんなに不貞腐れてるんだね」
「不貞腐れてないし」

隣に座ると分かりやすくブラックは顔を反らすから、私は思わず笑ってしまった。
ブラックは真っ直ぐだと思う。
昔からこれと決めたら一直線で脇目もふらず、ブレたりなんかしないんだ。
私なんかと違って。

「……ねえ、ブラック。ブラックは卒業式、泣いちゃうと思う?」
「泣かないと思うけど、中学の時も泣かないって言っておきながら泣いたし、泣くだろうな」

怒ったフリに飽きたのか、ブラックはそう言って頬を掻く。
走り出した電車の窓から太陽が足元に落ちた。
卒業式といったら大抵の人が泣いているイメージがある。
学校にそれだけ思い入れがあるのだろう、名残だったり、色々。

「私は、泣ける気がしないなあ」

だって私、名残惜しいほど何かしたわけじゃない。
胸を張れるほど頑張れたこともない。
私が三年間、学校で何をしたって、そんなの、分からない。
私は何をしたんだろう。何ができたんだろう。
できただろうことを、一体どれだけ見過ごして見捨てて見下して、時間を浪費したんだろう。
みんなが羨ましい。
頑張ったって言えて、精一杯の何かをして、成し遂げられたみんなが。
それなりの成果をあげてよかったねと笑えるみんなが。
みんな、みんな、みんなが。

「チェレンもブラックも泣くだろうね。泣かないのはひょっとしたら私だけかも。そうだったら嫌だなあ、目立っちゃうや」

お父さんばっかり泣きそうな気もして、それもプラスでちょっと嫌だな。
決してプレッシャーというわけではないと思うけれど父の過保護は、過度な期待は、イメージは、重い。
私にそれほどのものがないとバレたらどうしようと思ってしまう。
みんなの知ってる可愛いベルは卒業式も泣いちゃうような、そんな子だって知ってるよ。
でも泣けないんだもん。
ただ卒業式なんて学校が終わるだけじゃん。
どこで泣けって言うの?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ