いろいろ

□静寂がうるさいとき
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沈黙の末にベルさんは僕の両肩に手を添えて顔を覗き込んでくる。
ぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくてとっさに手の甲で隠そうとしたけれど、きっと無駄だっただろうな。

「キョウヘイくんは、2年って長いと思う?」

唐突な問いかけだった。
慰めでもなくそれが真っ先に落ちてきたことは僕にちょっぴり、何よりも安堵を与える。
2年といえば僕と彼女との隔たりだ。
何よりの違いだ。

「長いです。長すぎます」
「そうだね。私も長いと思う」

ベルさんは少し笑って、さみしそうに言った。
彼女がそんな風なのに顔を上げないわけ、ないじゃないか。
見上げると目が合って、にこりと笑いかけられた。
ベルさんはどうしてこんなに僕に優しいのだろう。

「あのね、キョウヘイくん」
「はい」
「2歳も年上なんだけど、私でもいいの?」

それって、えっと、どういうことだ。
急にショートしてしまった回路のせいで理解ができない。
理解していいのか?それって、そういうことにしか僕には思えないんだけど、いいの?
いいんですか、ベルさん。
ベルさんの目はいつも通り優しい。
同情なんかじゃない、しっかりとしたものだと直感した。

「2歳も年下で子供っぽいんですけど、それでもいいですか?」
「わ、私のマネしないでよう!」

顔を赤らめるベルさんが目の前にいる。
そういうことで本当にいいんですね。
視界は開けていないのに明るく空間が広がったかのように思える。
ベルさん可愛いと思ったままに言うと彼女は頬を膨らませて不服そうにした。

「キョウヘイくんの方が大人びてるんだもん、馬鹿にされてるかと思ってた」
「してませんよ。ベルさんは僕のこと、頑張って背伸びしてる子どもだって思ってましたか?」
「思ってないよお!」

必死で言ってくれる裏表のない彼女だから僕は笑ってしまった。
ほら、やっぱり一緒にいて喋っていて、一番楽しいじゃないか。
ベルさんの手をとると、彼女はぴくりと肩を震わせた。
触れられることに慣れていないからかな。
ボディータッチが多いタイプじゃないから。

「僕はベルさんが好きです」

そう言うと彼女はあたふたと視線をさ迷わせた。
改めて言われると恥ずかしくなってきたみたいだ。
ベルさんは僕のことどう思いますかと問うのは酷だろうか。
でも気になるし、今なら聞けると思うんだ。
簡易化させて、ベルさんは?と聞くと彼女は口を少しもぐもぐさせて、くちびるを尖らせた。
緊張が指先から伝わってきて心臓が喉元にまで上がってきたかのように錯覚する。
心音がうるさすぎて他の音が聞き取れない。
彼女の声だけは、何としてでも聞くけれども。

「…………好きだよ、キョウヘイくん」

照れ笑いする彼女がどうしようもなく可愛くて、ああもう、このあと彼女とどこに行こう。
すでに未来は幸せな色を確定させて描かれていこうとしている。
どちらともなく手を繋ぐと、もう何もいらないと思えた。
二人の間にこれ以上の言葉だって、本当はもう必要ないのだ。
だから互いに何も言わなくたって十分。
桜の花弁のダンスを見ながら、いつまでもいつまでも、そこで過ごせそうな気がした。
さすがに風邪を引いてしまうといけないから、ずっとはいられないけれど。


 静寂がうるさいとき

 title by:√9














ずっとキョウベルは書きたかったので!書けて嬉しいです。
キョウベル可愛い……トウベルも好きなんですけどね。
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