いろいろ

□漠然と好きじゃだめですか
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(シンアヤ)



大体いつも、いつ教室に行ってもアヤノは俺が来るのが遅いと言った。
当の本人は何時に来ているのか毎日一番乗りらしいから、さすがにこれには俺もそう言い返すことができない。
そんなに早くに来たってすることないだろ、と言うしかない。
本当にそれくらいしか言えることがなかった。
だって他に何を返すというのだ。
アヤノというと俺がそれしか言えないのを見て、いつも嬉しそうにしていた。
正義の味方に憧れを抱いているくせしてなかなか底意地が悪いんじゃないのか。
なんて、言えもしないけれど思う。

「もう。シンタロー、遅い!」
「別に遅くない。普通だろ」

またそんなこと言う、なんて満足気にアヤノは言って隣の席で足をぶらぶらさせる。
お前はいくつだという感じだが今言ったってきっと聞く耳なんぞ持っていないだろうから黙殺した。
俺が席につくと、ぐいと身を乗り出して体ごと俺の方に向いた彼女はにやにやしている。
女子に対して「にやにや」はかなり失礼な言葉ではないかと我ながら思うので「にこにこ」と言ってやりたかったがどう見ても「にやにや」だった。
他に言いようがないような笑みを浮かべるこいつが悪い。

「さては、妹ちゃんと何かあった?」
「何でそうなる」

何もねえよ。俺と妹の関係を何だと思ってるんだ、怖えよ。
ただの兄弟関係しかねえよ。
というかアヤノにも妹がいるらしいし、ラノベの主人公みたくなるはずがないというのは分かるはずだと思うのだが。
……もしやこいつの妹はそういう感じなのか?
それならばいきなりこう言い出したのも分からなくもない。
分からなくもないが、大丈夫か楯山家。

「つまんないの。そうだシンタロー、シャー芯ケース持ってない?」
「…………何に使う気だ」

シャーペンの芯のケースくらいでは何もできないと思うが、常人の考えの斜め上をスキップで行ってしまうアヤノだ。油断はできない。
火の粉がこちらに降りかかるかもしれないのだ、こちとらただでさえ素行不良だってのに授業態度までそんなに底辺にしたくない。
テストの点以外は本当にグズになってしまう、もう半ばなってるが。

「ドミノ倒しだけど?」

見て、これクラスのみんなにもらっちゃった!なんて満面の笑みでじゃらじゃらとたくさんのケースをビニル袋から出すアヤノ。
そんなものを大量に回収してどうする気だ。
ドミノ倒しって机の上だけでやるんだろ、その量はありすぎやしないか。
その上で俺の物まで足したらどうなる。
一個や二個くらいもう変わらないような気もしたが、そんなにあっても意味ないだろ。

「お前はいつも楽しそうだな……」

下らないことばっかしてるけど陰鬱な顔をして過ごす俺とは大違い。
そんな風に俺も生きることができたらよかったのだろうか。
ケースを寄越してやるとアヤノはへにゃりと笑った。
何となく軟体動物が思い出される。深い意味はないけど。

「だって、暗い顔してばっかりじゃあつまんないよ。そうでしょう?」

そうかもしれないけれど、それは正しいと俺も思うけれど。
問い掛けは眩しくて痛くて、俺は目を反らした。
俺はどうやったってお前みたいには、なれないから。

「お前が羨ましいよ」
「ホントに?シンタローにそんなこと言われると嬉しいな。えへへ」
「そうか?」
「そうだよ。ありがとね、シンタロー」

馬鹿で脈絡がなくて意味不明なところもあって、だけど明るくて俺とも分け隔てなく接してくれて楽しそうで。
笑うこいつを、理由なんて分からないけど好きなんだから笑っていてほしい。
俺がこいつのようにはなれないように、こいつは俺のようにはなれない。それでいい。
アヤノが俺みたいなのだったらなんて、ありえないことのままでいい。
俺も変わらずに、馬鹿だって思うのに結構散々言われるのにお前のことを好きでいるから。
だからどうか、このままで。

「一限目始まるぞ。片付けろよ」
「えっ。まだちょっとしか作ってないよ!?」
「お前また父さんが来るはめになるんじゃねえの?」
「それは困る!」

あたふたと片付けだす彼女を俺は見ているだけ。
好きだ、なんてきっと言わないままだろう。
でも本当に、何で俺はこいつのことが好きなんだろうな。
ベクトルが違うだろうけどアヤノも俺に好意を抱いているからだろうか。
どうせ一匹狼的なところがカッコよく見えたとか、アヤノのことだからそんなだろうけれど。
まあいっか、そんなこと何でも。
時間のかかりそうな片付けに仕方なく俺も手を貸してやる。
手を伸ばしてケースをビニル袋に入れてやると、アヤノはやはり、嬉しそうな笑顔を俺に向けた。


 漠然と好きじゃだめですか

 title by:代理人
















シンアヤっていうか私が書くといつもシン→アヤのような気が。
どうしてもシンアヤを書くと教室でのひとこまになる。
教室が似合うよね!

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