企画

□く(イエレ)
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※現代風パロ


クリスマスイブにデートだなんて、僕から提案してしまってよかったのだろうか。

当然のように待ち合わせの時間よりもかなり早くに到着してしまった僕は、
きらびやかなイルミネーションを見て、ふと、そんなことを思った。

駅前で時間を確認すると、18時26分。
待ち合わせは19時だ。

だってレッドさんは、もしかしたら(一応恋人の)僕なんかよりも、
ブルーさんやグリーンさん、後輩のみなさんと一緒にいた方が楽しいと思う



……かもしれないし。




だけど、僕だって憧れていたから。

聖夜―――イブに、好きな人と、レッドさんと2人きり。

恥ずかしすぎて、幸せすぎて途中で意識が無くなるかもしれない、と本気で思う。

(だってレッドさんは、いつだってどこだって、かっこいいんだもん)

はーっ、と白い息を吐いて手袋を忘れたからか
もう冷たくなってしまった手を温めて、空を見た。

真っ暗、時間はきっとあと少し。

(レッドさん、早く来ないかな)


***


「悪い、遅れたっ!」

パタパタと、黒色のコートに身を包んだレッドさんが叫ぶように言って、
走って僕の元まで来てくれた。

ぜーぜー、と息継ぎをする様子を見て嬉しくなる。

もしかしてずっとここまで、走ってきてくれたのかな。

(それだけで僕はもう充分に幸せだ)


「大丈夫ですよレッドさん。時間ぴったりです」

腕時計を見せながら笑って言うと、でもなー、とレッドさんは口を尖らせた。


「でもまた、イエローのが先に来て、待っててくれたみたいだし……」

やっぱ寒い中で待たせたくないし、と走った影響からか分からないけれど
頬を火照らせながら続けて、へらっと笑う。

そんなこと僕は全然構わないのに。

(あなたに会えるというだけで)

そんなことを思っていると、ほら、とレッドさんが手を差し出してきた。

彼も手袋を忘れてきたのだろうか?何も着けていなかった。


「行こうぜ?」

「……はい」

きゅっ、とその手を握り返して、少しだけレッドさんに寄った。

(一応は恋人だもん、これくらいはしたっていいよね?)


「つめたっ」

「すっ、すみません……」

「ははは、謝んなって。俺の方こそごめんな、こんな冷たくなるまで待たせて」

それは僕が勝手に早く来たからで、レッドさんは何も悪くないのに。

(でも慮ってくれて、嬉しいの)

はー、と白い息を吐くレッドさんを斜め下から盗み見る。

(やっぱりかっこいいなあ……)

黒色の、この季節に入ってから思いきってプレゼントした
マフラーを着けてきてくれている。

それが嬉しくて、胸がきゅんとした。

マフラーを鼻の下まであげるレッドさん。


「?」

と、僕の不躾な視線に気付いたのか僕の顔を見て、にこっと笑う。


「っ!」

慌てて視線を反らす。

だってレッドさんかっこいいんだもん、と
何度目になるか分からない言い訳を自分にする。


「ど、どこ行くんですか?」

「どこだと思う?」

とりあえず恥ずかしまぎれに場をもたせようと質問すると逆に返される。

デートの立案者は僕なのに、主導権はレッドさんが持っていってしまっている事実に、
僕は少しムッとして、こっそり頬をふくらませた。

(それでも別に良いんだけどね)


「レストランとか、ですか……?」

「ん、大体正解かな」

大体待ち合わせの時間が19時なのだし、当たり前と言えば当たり前。

だけどどうして、レッドさんはそんな煮え切らない返答を返してきたのだろう?

考えている間も歩き続け、待ち合わせの場所から10分程歩いた頃……。


「ここだ!」

別段遠くも無い場所で嬉しそうに、レッドさんは足を止めた。


「ここですか?……普通の家に見えますけど」

「はは、そりゃそうだ」

がちゃり、と鍵を取り出してドアを開けながら笑うレッドさん。

入って入って、と促されるままに玄関に足を踏み入れる。

もしかして、いやもしかしなくてもここって……!?


「ようこそ、俺んちへ!」

「お、おおおおお!お邪魔します……!」

レッドさんの家!!

お付き合いさせていただいて早2年、悲しいのか普通なのか
僕には図りかねるが、初めて訪る場所である。

年賀状を頼りに来ることもできたとは思うけど
……でもやっぱり、連れて来てもらいたかったのだ。

(レッドさんの、家……)

普通の家なのだけれど、新鮮で輝いて見える。

黒と白に統一された部屋は、まるでショールームみたいで。


「あ、あんま見ないでくれると助かる……必死に片付けたんだけど」

はは、と力なく笑うレッドさん。

僕は充分片付いていると思うけど。

くんくん、とふと漂ういい匂いが気になって嗅ぐ。


「あ、煮込んだんだけど、もう食べるか?」

「えと、あの……」

独り暮らし歴の長いレッドさんの料理はとてつもなく美味しい。

くう、と僕のお腹が鳴って変わりに返事をしてくれた。

明るく楽しそうに笑うレッドさん。

恥ずかしいんだけど、だけど。

(こんな瞬間さえ愛しくて)

ちょっと温め直してくる、とキッチンにエプロンを着けながら向かうレッドさんは
やっぱりかっこよかった。


***


「ふわあ……」

「どうだった?」

満腹になり心地好い幸福に浸っていると、声をかけられた。


「とっても美味しかったです。レッドさん、本当にお料理上手ですよね」

「褒めても何も出ないぞ?」

ポリポリと頭をかきながらも満更ではなさそうなレッドさん。

煮込んであった料理はよく味が染みていたし、
ローストチキンが自家製で出てくるなんて僕はビックリした。

(てっきりクリスマスは●ンタッキーに頼るものなんだと思ってた)


「ここじゃあんまくつろげないし、こたつに移るか」

「はい」

こたつあるんだ、とまた驚きながらも付いていくと、
しきっていた壁もとい薄い扉を開けて中に入っていく。


「ここ、なんだけど」

「うわあっ……」

丸いカーペットの上に丸い机のこたつ。

小さなそれは、2人入れば少しきつそうで。

(でもレッドさんとならむしろ入りたい……)


「……悪い、やっぱ止めるか」

「え、入りましょうよ!こたつ!」

「イエローがいいって言うならいいけど……」

狭さにやはり抵抗があるのか、言いよどむレッドさん。


「……」

「…………」

こたつに入っても、会話が続かなかった。

気まずい、いつもより距離が近い分余計に心音が聞かれそうな気がする。


「てっ、テレビでも見るか」

「そうですねっ」

2人して挙動不審で、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


「せっかくだから、テレビよりもトランプとかしないか?」

「はい」

レッドさんと一緒なら何でもいいのだけれど、という本心は伏せる。

(そんなの言えるはずがない!)


「じゃ、ババ抜きしようぜ!」

こうして、2人だけのトランプゲームは始まったのである。
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