企画

□もう少し考えさせて
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“このままでいいのか?”

そんな考えに俺が取り付かれたのは、昨夜の晩のことだった。


『よーおシル公、元気にしてたか』

「……何だ急に」

午後6時すぎごろ、唐突にポケギアに掛かってきたのはゴールドから。

いつも通りに何を考えているのか分からない奴らしく、はははと陽気に笑った。


『相変わらずっぽいな。よかった、よかった』

「どう言う意味だ」

はあ、と深い意味もなくため息がもれる。


『……なあ』

「何だ」

『…………お前今、どこにいるんだ?』

「別にどこにいたっていいだろう?」

どうしてお前に俺の私生活に口を出されなきゃいけないのだ。

少しムッとして言い返すと、数秒の間が空いた。


『仮面の男は倒した。ロケット団も滅ぼした』

淡々と。

聞こえてくる声色からは、ゴールドの抱く感情は分からない。


『なあ、だからよ』

―――お願いだから。

懇願されていることに気付いて驚いた。

俺を思ってくれているのだろう。

俺があいつを思うよりも―――たくさん。


『ハッピーエンドでいいじゃねえかよ、何でシルバーは、まだ』

「……すまない、後にしてくれ」

『っ』

いたたまれなくなって、何だか申し訳なくて。

こういう時にどうすべきなのかが、分からなくて。

こんなことしてゴールドが傷つかないとは思っていないわけではないけど。


『んだよ、どうしてお前だけが未だにそんなにも、苦しめられなきゃいけねえんだよ!?
 お前だって、シルバーだって……幸せになれる方法があるはずだろ!?』

一気にまくしたてられて耳を塞ぎたくなる。

やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!!


『……逃げんなよッ!』

ブツッ。

通話ボタンを切って、だらん、と腕を垂らすと自分が操り人形になったようだった。


逃げんな、か。


自分が逃げていることには、もうだいぶん前から分かっていた。

分かっていながら、何もしなかった。

分かっていながら、意識の外にはずそうとしていた。


だって逃げるのが一番、簡単に楽になれる方法だから。

自分が姉さんたちが滅ぼした、悪の組織のトップの息子?

自分を探すために、悪の組織が結成された?

悪の組織のリーダーの息子だから、俺は仮面の男に捕まった?


「……っ、くそ」


だけれど俺は、たとえどんな人でも両親に会いたいと、思ったし。

探してくれていたことが嬉しかった。

また、父と呼べる人に会いたかった。


―――それこそ、“自分以外の交友関係”等から逃げ出して。


「分かってる、分かってるけど」

逃げてばかりじゃダメなことは、そんな初歩的な簡単なことは、頭では分かっているはずなのに。


俺は弱くて自分に甘い。


こんなんじゃダメだ、ダメだ、でもどうしたら、どうすれば。

堂々巡りを繰り返して、いつも行き着く先は“どうしようもない”という現実。

俺は結局、どんな場所にも息つけないのだろうか。


「……いっそのこと、もう、」

不幸を撒き散らしてしまう、元凶である、発端である自分が。


「こことは違う場所に、逃げるべきなんだろうか」


逃げない、という選択肢は。

まだ俺には選べない。
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