企画

□あいらぶゆーが言えなくて
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※学パロです


その日は平凡なんかじゃなかった。

何でか、なんて、意識せずとも分かってる。

憧れのあの人に本命チョコを渡すために早めにセットしたはずの
時計よりも、さらに倍近く早くに目が覚めた。

二度寝なんて到底不可能、若干寝不足なくらいだ。

まあそうでなくとも、僕はよく船を漕いでしまうのだけれど。


「……よ、し」

いつもよりも格段に、冗談みたいに早い時間帯。

だけど僕はここだけいつも通り、朝食もそこそこに家を出た。


「行ってきます!」

意気地無しの自分が選んだ、憧れの彼にチョコを渡す方法。

誰よりも早く行って、彼の机に入れておくこと。

名前なんて書かないし、僕からのチョコだ、って分からなくてもいい。

ただこの思いの丈を伝えたくて。

面と向かって渡すのは僕に勇気が足りないから。


「失望するなあ」

誰にも言えないや、と自嘲チックに呟いて通学路を駆ける。

これが朝日がまだ、出てくる前の話。






校門の明け締めをしている公務員のおじさんに今日は早いね、と驚かれる。

いつもは閉まるギリギリに来るから僕も苦笑しかできない。

お世話になってるし、チョコ渡せば良かったかも。

自分は思った以上に緊張しているようだ、本命チョコ以外は作っていない事実に気づく。

ヤバい、友チョコとか交換しなきゃなのに。


「……ごめん、ね」

本命チョコしか持ってないなら、本命以外はあげなくていいや、なんて。

友人のあきれたような顔が、思い出された。






職員室で自分の教室の鍵を取る。

確認すると―――僕ってどれだけ早く来たんだろうか、全クラスの鍵が、そこにあった。

すぐ返します、と心の中で言い訳をしてレッドさんのクラスの鍵を、そっと借りた。






誰もいない廊下をペタペタ歩く。

サイズのあっていない上靴が床で擦れる音だけが響いている。

電気をつけなきゃいけないくらい、外はまだ暗くて。

ああこれって、夢なのかな?

緊張してしまう。


「失礼します」

鍵を明けてガラガラと扉を移動させながら誰もいない教室に言う。

真っ暗。

彼の席は一番後ろの窓際。

遅刻ギリギリな僕を、笑って頑張れ、といつも言ってくれる席。


「…………」

悪いことをしているようで心臓が首もとまで這い上がるかのごとく、脈打つ音が大きく聞こえる。

実際悪いことをしているのだけれど……鍵を無断で借りてるし。


「レッドさん」

小さく言ったはずの言葉は、何故だか大きく聞こえて。

それだけで、自分で言っときながらも恥ずかしくて照れてしまう。


「っ、うう!!!」

とにかく速く入れてしまおう!

チョコを机の中に押し込む。

よかった、置勉してないみたいで空っぽだった机にすんなりと入った。

ほう、と息がもれる。

達成感でいっぱいだ、さあ後は立ち去って鍵を戻すだけ。


「イエロー?」

なのに僕の背後から、声がした。

心臓が、止まった。




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