企画

□予告チョコ
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何してんだあいつ、あんな所で。

いや、“こんな所で”の方が正しいのか?

しゃがみこんで下の棚に陳列されたチョコを
真剣な面持ちで吟味するクリスをガラス越しに見つめる。

そんなしゃがみこんでまで誰の選んでるんだ?とか。

真面目優等生でもヤンキー座りするのか、とか。

そんなことが頭をかすめた。


「……お客様?」

「あ、わりィわりィ」

受付嬢にいぶかしげに声をかけられた、そりゃそうだ。

出入り口で停止して動かない客なんて、声をかけない方がおかしい。

慌ててその場を離れる―――と。


「っあ、しまった」

出入り口である正面玄関を離れてしまった。

別に出口は別にもあるのだが、スケボーを取りに行くのが面倒なんだよな。

まあ、あそこには当分近付けないか。

まだチラチラ怪しげに見てくる受付嬢にウインクして誤魔化した。

誤魔化し切れてない?

気にすんな!







「あとは……オーキド博士とウツギ博士にも買おうかしら」

後輩の分も、と考え出せば、だったら先輩の分も用意しなきゃと思う。

……うん、手作りはゴールドの分だけで、あとは市販のでいいか。

ごめんねシルバー、有名店の美味しいのにするから。

手作り用キットを戻して数を確認する。

よし、じゃあこれでお会計に行こうかしら。


「よっ」

終わりがけだったのに。


「ゴールド!?」

「チョコ、手作りじゃないのかよー」

よりによって会うなんて、最悪だ。

チョコをあげる相手に、チョコを買う場面を見られるなんて。

どんな寸劇よ、笑えもしない。


「そうだ、クリス」

「何?どうしたの?」

声が裏返りそうになって、怖い。

気づかれたら、気づかれたら。

もう気づかれてるかもしれないけど、気づかれたら。

あなたに渡す手作りチョコキットなんて、見られたくないから。

平常通りに装って、会話を進める。


「俺の分、ねえの?」

……なんて答えられたら、正解なのだろう。




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