企画

□本命は後日
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むう、とうなったって誰もどうもしてくれない。

神様は理不尽だ、と都合の良い時だけ信じる頼る神様を恨む。


「い゙だい……」

虚しく声だけが響いた。









痛い。

何が原因だったのだろうか。

思い当たる節がないわけでもない、むしろ目茶苦茶ある。

歯を磨かなかったことも何度もある……加工製品を身に付けてなかったあの時期とか。

でもだからってさ。


「痛い……ルビー、何とかできん?」

「早く歯医者に行ってきなよ」

こんなときに限ってルビーはそっけない。

ひどい、何だかふて腐れてるような気がする。

分かってる、その理由は確実に。

今日がバレンタインだから。


「うー……歯医者、行ってくるったい」

でも自分もチョコ食べたいし。

理不尽だけど、ルビーにも虫歯が治るまではチョコはお預け!

(あたしが食べれんのにあげるなんち、嫌ったい!)

手作りであげたいもん。

でも、味に自信なんかないし。

味見をしなきゃいけないわけで。

(虫歯の間はできないち、仕方なか!)

言い訳がましくリフレイン。

本人に言えもしない、どうして私の恥ずかしがることは大抵分かってくれないのだろう。

いつもはあんなにも、分かってくれるのに。

歯医者の看板を見て、はあ、とこぼれた息は、決して虫歯を治すのが
怖いだけじゃ、ないはずだ。












「…………うぅ」

歯医者に行ったからといって、直ぐ様虫歯が治るわけでもない。

まだ、じんじんしている。

歯医者になんて二度と行くか、と心のなかでののしる。

何だかいつものように、明るくなれない。

動き回れない。

(こんなに憂鬱なのは、虫歯のせいだけじゃなくて)

(あんたはまだ、ふて腐れてるだろうから)


「手作りにしたかったち、」

したくなかったと。

けど、そんな暗い顔をされるのも嫌だから。

これで機嫌を治してくれるのなら、それでもいいのかな、と。

綺麗に包装された可愛らしい箱を、レジに運んだ。












「あれ?」

歯医者に彼女が行って、今年こそはチョコ欲しかったな、と自虐を言って。

とりあえず掃除でもしようと片付け始めた矢先、クッションの下から
チョコ系スイーツの料理本を発掘した。


「こんなレシピ本、僕は持ってないし……」

初めてでもできるバレンタインチョコ特集号!と書かれたそれは、
今はいない彼女のものとしか思えなくて。


「ああ、そうか」

虫歯だと味見が、できない、よね。

僕はどんな味でも、君の作ったチョコなら食べきる自信があるのに。

クッションの下なんていう、すぐバレる隠し場所が、彼女らしくて笑えて。

自分の希望的観測が本当ならいいのに、と結局自虐に走った。



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