企画

□思いが通ずるまでの道のり
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うれしかった、とても。

彼が駆けつけてきてくれて、何とかなった気がしたのだ。

私を庇うように、代わりに引っ掛かれて、噛まれてくれた。

だけれど猫もどこにも行かなくて。


「大丈夫だよ、大丈夫……だからね」

かばい続けてくれる彼。

私は、自分のせいで彼が傷付いている現状をどうにかしたいとは思うのに。

引っ掛かれた傷が、痛くて。


(こわい、よ……)


どうしたらいいのか、分からなくて。

しばらくそのままの状態が続いたかと思ったら、切羽詰まったような猫の鳴き声がして、
攻撃していた猫が逃げ出した。

庇った猫は私の腕から逃げ出して、彼と2人きり。

血をかすかに流しつつも、彼は笑った。


「大丈夫?」

「うん……」

あなたは?と言おうと、顔を上げた刹那、三毛猫が走ってきた。


「きゃっ……!?」

「危ない!!」

さっきまでの猫とは比べ物にならないくらい、大きく見える。

それに何だか、目がらんらんと光っていて。

私を守るかのように背に隠す彼。

ふにゃー、と威嚇するように三毛猫が鳴いた。


「……っ!」

彼だって、恐かっただろう。

泣きたかっただろうと、思う。

でも私を守ろうと、踏ん張ってくれた。

にゃあ!と一声鳴いて、猫が前足をふりあげた。


動くこともできずに、彼に直撃したソレ。

満足そうに鼻を鳴らして去る猫。

彼はフラ、と倒れそうになったけれど方膝ついただけで堪えた。

私を心配させないために。


「大丈夫?サファイア」

「っ!……ひっく」

安心させようと笑う彼。

最後の一撃でできたのだろう、額からは血がどくどくと流れている。

かつては、この頃は。

まだ血が、怖かったのだ。


「こ、わい……よ……」

だから。


「え?」

「こわいよ……こわいよ……!」

私は彼を、拒絶したんだ。

それ以来、彼には会っていない。



奇しくもそれは、小学校入学式の前日のことだった。



傷だらけで迎えた入学式。

彼にしてしまった仕打ちを悔やんでいた。

小学校では、自ら進んで血をみるようなことにも取り組んだ。

もう二度と、血を見て「恐い」なんて世迷い言を吐かないために。




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