創作

□空気の魔法使い
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「魔法、使い……?」

しかも“なった”って、どうして過去形なんだ。

俺のいない間に、一体何があったんだ。


「落ち着け……オーケー、大丈夫」

とりあえず自分自身を落ち着かせる。
バクバクと心臓が振動しているのが異常なほど感じられる。


「お前、魔法使いって………中二?」

「違うもん!本物だもん!現役女子高生で魔法使いだもん!」

ヒッキーだけど、と自ら付け加える妹。
それ言ってて、悲しくならないか?

現役女子高生、関係ないし。
ヒッキーが“現役”って使っていいのか?


「ちなみに、何の魔法が使えるんだ?」

聞いてしまう俺は、よっぽどの酔狂かもしれない。
しかし断じて、シスコンではない(ここ重要!)。


「ふぬっ……」

急に両方の親指を下につき出して、力む妹。

はたから見ると、全力で“死ね”とジェスチャーで示しているようにしか見えない。


「えっ、……何してんの」

「ABCDEF、GHIJK……」

何故かアルファベットを暗唱し始める。
あのかの有名なメロディにのせず、淡々と続くアルファベットは、
何だか不思議と恐怖が沸き起こるような気がした。
(妹の目がマジだったこととも、関係しているだろう)


「……ふう」

Zまで言い終えて、無表情にため息をつく妹。


「今のは私が唯一使うことができる魔法、“空気の魔法”!」

そんな素晴らしく爽やかな笑顔で言われても。

困惑する俺に、妹は懇切丁寧に“空気の魔法”について語ってくれる。


「今のは親指に重力をかけて垂直抗力を無効化し、空気の存在自体に負荷を
 かけて、空気中の窒素濃度を変化させたんだよ」

「お前絶対、前半言ってること適当だろ」

兄ちゃんは一応、理系なんだぜ!?


「当たり前じゃん、適当だよ」

案外あっさりと認める妹。
そこは頑固じゃないのな。


「だって“魔法”だよ?原理、摂理、定理なんて関係ないし」

関係ないんだ、すげーなその世界観。

妹はヒッキーになってた(?)間に、一体何がどうなって、“空気の魔法”とか
言い出す子になってしまったのだろうか。


「魔法使いとしての、二つ名で、これからは呼んでね」

「二つ名なんかあんの!?」

世界観が意外ときっちり設定されているようだ。
どんな世界観か、俺には理解できないが。


「私は“空気の魔法使い”にして絶対零度の何色にも染まらない白。
 不屈の志を抱く慈愛の第一人者、“2360円”!」

「円!?」

突っ込み所が多すぎてどこから突っ込んでいいのか分からないが、
最後の部分が衝撃的だった。むしろ衝撃しか無かった。


「おまっ……二つ名、“2360円”なの……?」

「おうっ!もう、兄ちゃんたらやめてよ照れちゃう!」

きゃぴきゃぴと、頬を朱に染めながらも嬉しそうに、そんなことを言う。

意味不明なんだが……マジでどうしちゃったんだ、妹。


「¥2360ってことか」

「¥とか言わないでよ!あんなとは、別物なんだから!
 あんな……卑猥なものと、一緒にしないで!!」

どこら辺に“卑猥”な要素があるのだろうか。


「それより、お兄ちゃん」

「……どうした?」

何だか妹と会話をしだしてからドッと疲れた気がしてならないが、
年長者として気丈にふるまうことに専念する。


「お兄ちゃんは何の魔法使い!?二つ名は!?」

「はあっ!?」

キラキラと、期待に満ちた瞳で見つめてくる妹。

その姿は、何だか昔、遊んでいた頃と似ていて。


『お兄ちゃん、本の続き読んでよー!』


懐かしく、思えて。


「そうだなあ……」

どう答えようか迷ってしまうのは、やっぱり俺が妹に弱いから……なんだろうか。












終わろう、うん。
意味不明ですね(2360円って……)
ただ『ヒッキーな妹が兄につっかかる』&『友人の失言から生まれた空気の魔法ネタ』が
使いたかっただけなのです、ごめんなさい。
……友人に怒られそうだ。
そんなこんなで“空気の魔法使い”でした。
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