創作

□恩の押し売り
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「知らない、知らない!」

呟きながら階段をかけ降りて、逃げるように――否、逃げた。

だって怖いし。

大丈夫、あたしは何にも見てないし聞いてない。

だから何にも、知らないんだ。


「―――しいちゃん、さん?」

すれ違い様に聞こえた声が自分の名字からのあだ名だったことには、気づかなかったフリをした。


***


自分が身勝手で馬鹿でどうしようもないことは、大分前から知っていた。

知っていたけど、知らないフリを続けていた。

だって自分の嫌な部分に目をそらして、何がいけないの?

答えのないご都合主義を行使し続ける幸せで退屈なこのセカイ。

満足なんてしてないよ。

苦しいよ悲しいよ、泣きたいよ。

ねえ、“五月蝿い”なんて言うひとたちは、自分の声が聞こえてないの?

ひとりぼっちはそんなに“可哀想”?

哀れみなんてこめないで!
憐れんだりなんてしないで!

見下すなよ、それでも私は変われないんだから!

世界は弱者に優しく在れよ。
親切に接してくれよ。

「死にたい」と口に出して、でも死ねない気持ちがわかりますか?

分からないだろうね。

わかるはずなんて、ないだろうね。

幸せそうに笑う私以外に対して、私は自虐的に嘲笑って呟いた。


「ああもう、人類なんて滅びればいいのに」


***


そんなよく言えばネガティブ、悪く言えば人嫌いな私が目指すのは当然のように
屋上――無人地帯(オアシス)である。

一人で昼食を食べる様子を気の毒そうに見られる人の気持ちが分かりますか?

見るひとが私を考えてくれていたとしても。

たとえそうだとしても、さあ。


「―――私には、辱しめを受けているようにしか思えないし」

空が高い、届かない。

伸ばした手なんて、届くはずがない。


「結果私は、案外寂しがりやなだけだったり」

私を、自己を、肯定してほしい、それだけなのかな。

なんて、下らない。


「ああっ、もう!バッカじゃないの」

腹がたつ、すべてのことに腹がたつ。

優しさで話しかけてなんて来ないでよ。

情けない、なんて滑稽。

あだ名なんて考えないでよ。

期待して、裏切られて実際は、みんな、その場かぎりの冗談で。

そんな風に生きてきた。

そうやってやってきた。

慣れてるよ、いつものことさ。

「おはよう」と2、3人とあいさつして、申し訳程度の相槌を打ち、
憐れみのごっこ遊びのような時間をすごし、可哀想、と話のネタにされ。

ねえ、目についた時に暇だからって、私で時間をつぶさないでよ。


「どうしようもない自分のせいだ、自分はバカだ。ああ、死んでしまいたい」

死んだら幸せかは、分からないけれど。

少なくとも現状は分かりやすく嫌だ。

安直、あくまでも逃げようと言う姿勢にも腹がたつ。


「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!」

いないような、存在が空気のような。

笑い事じゃないよ、笑えないよ。

友達が少ないどころのさわぎじゃない、いないのだから。


「……はあ」

秋風染みる屋上でたそがれる。

もうこんな季節、今更すぎて無理だ。

引き返せない、リセットボタンなんてどこにもない。


「つらい、なんて、感じなきゃいいのにな」

過去の自分が変われば、今の自分が変われば、変わる未来が恐ろしい。

だから私は今日も。




押し売り

(貴女たちからの無償の恩を)

(憐れみとともにいただきます)

(押し返したくとも、相手がいないの。)












恩って押し売られたりするんでしょうか?
私は押し売りありそうだな、と思います。
 

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