創作

□渡せず仕舞い
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女子は、バレンタインといえば。

友人同士でチョコを交換しあうのが常識、と思っているのかもしれない。

現に俺の幼馴染みは今、紙袋に友チョコ用らしい手作りのチョコ系お菓子を入れている。

そんな友人と交換するための日じゃないはずだろ!?

そんなことするくらいなら、義理でいいから俺に回せ。

言ったら『そんなにチョコ欲しかったの?』なんてこの幼馴染みはのたまうことだろう。

俺の幼馴染みは、母親同士が旧知の、唯一無二の親友らしく生まれたときから知っている。

何の因果か通う高校も同じ。

学力も運動能力も同じくらい。

違うのは性格くらい……見た目こそは違うものの、二卵性双生児と言えば騙すことができそうなくらい。

俺と俺の幼馴染みは、そんな感じだ。


「ねえユウくん」

「ん?何」

「チョコ、お友達に渡せるかな……」

黙りこくっていた幼馴染みは小さな声で、そんなことを呟いた。

渡せるかな、って……友達なんだろ?


「友達に友チョコとして、渡すんだろ?渡せないわけねーよ」

「そうかな……まず私、渡せるかな……」

人と目を合わせるなんて、怖い。

社会に出たらどうやって生きていくつもりなのか分からないが、頭を抱える幼馴染み。

幼馴染みに、同情心がわかないでもない。

引っ込み思案で大人しいタイプの幼馴染みは、友人でさえも恐がる。

恐がらないのは……自信過剰に思われるだろうが、俺だけである。

何故だかは、知らない。

俺も深くは知ろうとも思っていない。


「今日は話しかけられるかな?ねえ、お友達のこと、何て呼ぶべきかな」

「オイもう2月だぜ?今まで何て呼んできたんだよ」

「……呼んだことないよ?」

絶句した。

2月も中旬にもなる、この時期に。

友達の名をどう呼ぶべきか迷うなんて。

いわく、今までは呼ばずに通用するように話してきたのだとか。

そんなんだからイマイチ仲良くなりきれないんだよ、と憎まれ口をたたこうと思って……止めた。

言ったら、幼馴染みは泣き出してしまうだろうから。




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