創作

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僕らが旅に出ることが決まって一番喜んでいたのは、多分チェレンだった。

僕もトウコもベルも、楽しみじゃなかったわけじゃない、だけど。

チェレンは前から、言っていたから。


『旅に出て強くならなきゃ。強くなって、僕は……』


どうしたらいいかは分からないけれど、強くなれば答えが分かりそうなんだ。

誰よりも頭がいい彼がそう言うのだから、と。

僕らもその言葉こそ間違いがないのだろうと、思っていた。



 3匹と4人

   〜side・touya〜



ずっと一緒にすごしてきた僕らが離ればなれになって旅をするなんて、最初は寂しいような気もした。

そんなこと言っても仕方ないだろうから、言わなかったけど。


「ねえねえトウヤ!トウヤは最初のポケモン、どの子にする?」


「……ベルこそ、どうなの」


「ええー、トウヤから言ってよう!まあトウヤだし、しょうがないかもしれないけど……
 うーん、私はね!ポカブかミジュマルかな」


楽しそうに話すベル。

そんな僕らを背後から見守るようにして付いてくるのは、トウコとチェレン。

何やら小声で深刻そうな顔をして話している……何を話しているんだ?


「で、トウヤはどうなの?」


耳をすませようとしたらベルにグイッと腕を引っ張られた。

当然か、僕は今ベルと話しているんだし。

トウコとチェレンが何を話しているのかは気になるけれど……コソコソしているのだから
聞かせたくないに違いない、無理に聞くこともないか。

さて、最初のポケモンは余りでいいや、と思っていたけれどそれだとベルに食いつかれそうだ。

質問攻めにされるのは避けたい。


「ミジュマル」


「ツタージャじゃなくて?意外だなあ」


「ツタージャはチェレンだろ」


「偏見だなあ、まあ確かにそれっぽいけど」


あはは、と笑うベルを見て、僕も少しだけ口角を上げた。

時間を潰すにはこれくらいでいいだろう。

クルリと2人な方に向き直り、端的に口を開く。


「そろそろ時間」


「またトウヤは動詞を省く……そんなんじゃ旅なんてできないんじゃないの?
 私がいなくて大丈夫なのかしら、不安だわ」


わざとらしく大袈裟に息を吐くトウコにイラッとしたけれど事実だから仕方ない。


「まあまあトウコ、トウヤの言う通りそろそろ時間だから、散歩は終わりにしようよ」


「そうね、じゃあ帰りましょうか」


僕の家に僕ら4人の最初のポケモンが届くのは午後3時。

時間まで散歩をしよう、と言い出したのはベルだったけれどナイスアイデアだった。

あっという間に過ぎた時間に驚きつつ退散。


「……ただいま」


「トウヤ、元気よく言いなさいよ。たっだいまー!」


「じゃあ私も!おじゃましまーす」


「トウコ、ベル、君らって……おばさん、お邪魔します」


ガヤガヤと騒がしくしながら口々に言うと、お母さんは笑った。


「おかえり、もう荷物が届いてるわよ!先に開けたら悪いかな、と思って
 ちょうど今、2階のあなたたちの部屋に運んできた所よ」


「やった!行こ、みんな!」


先導するかのように階段をパタパタ慣れたようにかけ上がるトウコ。


「待ってよトウコ……」


残された僕らはいつものように数拍遅れてから後を追う。

トウコは誰よりも早く、誰よりも強いと僕はこのとき思っていた。




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