創作

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ポケモンセンターを出ると、趣味の悪い、カウンター席でも見た奴らがまだ人を集めていた。


「演説だってさ」


「チェレン!ベルも!」


何をするのだろうかと、遠巻きに見ていたらチェレンに声を掛けられた。

ベルもチェレンと一緒にいた、旅に出て数時間後にまた再会するなんて。

あれだけ『みんなとはお別れ』だとか言っていたから、拍子抜けする。

同時に安心も、する。

私とみんなの関係は、変わらないんだと。

近くで演説を聞こう、とチェレンに連れられ人混みに近寄るトウヤ。

人混みが嫌いだから顔をしかめている―――まあ、初めて聞く演説が気になるようで
複雑そうな表情を浮かべているのだけれど。


「トウコも近付いて見たい?」


「んー、私はここから見たいかな。ベルは?」


「私も人混みはちょっと。ここからトウコと見るよ!」


可愛らしい幼馴染みと顔を見合わせて笑うと、旅に出たことなんて忘れてしまいそうだ。

旅に出なければツタージャ……ナイトと出会えなかったからよかったと思うけれど。

ナイトと出会うこともなければ、こんなにも旅を楽しめなかったろう。

ボール越しに撫でると、何となく落ち着いた。


「えー、みなさまお集まりいただき、誠にありがとうございます」


ゲーチス、と名乗る『プラズマ団』とかいう所属の男の、演説が始まった。

何やら聞く気も起きないような前置きをし、そして。

―――爆弾発言を、投下した。


「人間はポケモンを解放するべきなのです」


「……え?」


いわく、人間はポケモンを傷つけていると。

捕まえ使役し、生活を脅かしているのだと。


「……そうなの、かな」


「そんなことない!」


隣のベルが不安そうに翡翠の瞳を曇らせた。

思わず言い切った言葉に、覆い被せるようにしてゲーチスの演説が続く。


「疑う人も、信じない人もいるでしょう。しかし、人間がポケモンたちを危機に晒しているのです」


「そんなことない!そんな悲しいことをする人間が、確かにいないわけではないけれど!
 だけれど、そんな人間ばかりじゃない!ばかりじゃないから、世界はこうして今日も動いてるんだ!」


たまらず、反論した。

マイクなんかには叶わなくて、誰にも、隣にいるベルくらいにしか聞こえないささやかな反論。

私の声が届かない、ゲーチスの前にいる聴衆は、口々に言う。


「私たちはポケモンを苦しめてきたの?」


「所詮人間はっ……自己満足しかしてなかったんだ……!」


「ポケモンを絶滅においやるのはポケモンじゃない、他でもない人間なんだ!」


彼らの言葉には、ゲーチスの言葉を信じているのだと、肯定しているのだと分かるものがあって。

違うのに。

すべてのポケモンが人間に苦しめられている、わけでもないのに。

楽しく自由に遊び回るようにポケモンと接することの、何がいけないの?

何が、いけないの?


「トウコ……ポケモンセンターに、入ろうか」


軽い貧血を起こしかけた私に、ベルは優しく接してくれる。

ありがとう、と呟いたはずの言葉は、上手に言葉にできなかった。

―――トウヤは、演説をどう思ったろうか。












(流されやすい兄が流されないことを、祈った)




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