創作

□去る日曜日
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「何かあったのかなー……?」

「あったんだろ、きっと」

何も無かったらこんなにも切羽詰まった様子の看護師さんを見ることは無いだろう。

簡単に返して凪に問う。


「何号室?」

「ん、知らね」

「知らね、って……」

階だけ聞いたのか。

そこは聞けよ、普通。病室くらい。


「まあネームプレートあるし、探せば見つかるだろ?」

「だな」

看護師さんに聞きたいところだが、生憎急がしそうで気が引ける。

地道にやるのが一番確実か。


「さっきは流したけどさ」

「ん?何だよ何か気になるようなこと言ったか?」

何気無いように、ただ病室を目指すだけなのもつまらないので
話しかけると、例にもよって軽いテンションで返してくる凪。


「さっきメールとか言ってたけど、お前ケータイとか持ってんの?」

「うん、先月から持ってるけど」

「先月……」

かなり前じゃねえかよ、何で教えてくれないんだよ。

かなりのショックを覚えたが、何事もなかったかのように振る舞う。

……振る舞えてるよな?


「梨夢はケータイ持ってなかったもんなー」

けらけらと軽薄そうに(事実、軽薄なのだけれど)笑い、言ってくる凪にカチンときた。

何だよ、俺の事は何でも知ってるみたいに。

俺がすぐ報告してるから、知ってるのは当たり前なんだけど。

でも何だか、気に食わない。

俺が凪のこと―――知らないのに。

どうして凪は俺のことを知ってるんだよ。


「持ってる」

だから俺は嘘をついてみた。


「えっ!?マジで?じゃあ病院出たらメアド交換しようぜ」

「………」

心の中で、嘘だよバカ気付け、と罵る。

理不尽なのは、俺の勝手なのは、もちろん分かっている。

だけど、だけど、だけどさあ。

幼馴染みだからって、一番に“親友”だって淀みなくいえるはずの相手にだって。

分からない、知らない所があって。

なあ、そんなこと凪は考えたことはあるか?なんて。

世迷い言を考える。

ネガティブにも考える。

そんな俺はなんて弱いのだろうか。


「おっ、発見!“岩見 秋和様”!」

今回も、前回と変わらない一人部屋だ―――それがどんな意味を成すのか、俺は知らない。

ネームプレートをわざわざ指差し確認し、病室前で消毒をする。

さ、入ろうぜと、意味もなく気構えてガラガラと扉を開けた。


「君たち、この部屋に何か用?」


キッと鋭い目付きの看護師に睨まれた。

その様子から、ああ看護師さんたちが慌てふためいている元凶はこの病室なのか、と思う。

じゃなきゃそんな、来訪者を睨み付けたりなんてしないだろう?


「……え、っと。俺、岩見さんの見舞いに来たんスけど、どうかしたんですか?」

「お見舞いの方ですか……申し上げにくいのですが、岩見さんは現在……」

言いよどむ看護師。

ベテランと呼ばれそうな見た感じの年齢には、そぐわない迷いがありありと
分かってしまう声、返答。


「どこかに行ってしまった……、んですか?」

「はあっ!?梨夢、そんなわけ」

凪が反論をしてくるから仕方なく、そんな考えに至った考察を語る。

秋和が病室からいなくなるなんて、今まで何回も入院してきたが一度もなかった。


「これだけ看護師さんたちが慌てているんだし、本人のいない病室には待機する人もいる。
 これは帰ってくるのを待っているみたいじゃないか?」

「そうなんですか?」

淡々と、何となく思ったままの言葉を紡ぐ。


「………はい」

看護師の答えを聞いた凪は、すぐさまクルリと方向を変える。

急速な転換の後、全力で、病院の中だというのに人目も憚らず、駆けた。

今はもう引退してしまったが、中学三年間ずっと陸上部でレギュラーだった凪は速い。


「おい、待てよ―――!」

俺は情けないながらも、後を小走りに追って凪の姿を見失わないようにすることしか
できなかった。
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