創作
□天真な火曜日
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「はよーッす野分くん、昨日はありがとね」
すでにいた鬼負がピョコピョコと髪を揺らしながらやってきて、へにゃりと笑う。
なんかなあ、鬼負の“笑顔”ってすごい安い気がする。
いつも笑ってるから。
「あれ、梨夢、いつの間に鬼負と仲良くなったんだよ?」
「ハッ、何を言っているのよ白垣くん?私と野分くんは、生まれてこのかた一度も
離れたことが無いというくらい一緒にいる仲じゃないの」
「どうしたんだ鬼負!?」
さすがに凪もこの鬼負の急なノリには驚いたようだった。
まあ俺も驚いているけど。
「いや、メルアド交換するくらいなんだから凪の方が仲良くないか?」
「いやいや、梨夢には及ばないぜ?」
「何故そんなノリで鬼負に話を合わせようとするんだ」
する必要のないことをするな、面倒臭い。
「お前らって仲良すぎてー、もはや二人の間に入れねえよ、ははっ♪」
「意味不明だ」
あははっ、と明るく笑う凪に無表情で事実を告げる。
そういえば凪も凪で、鬼負とは違うけどよく笑ってるよな……。
「否、凪はへらへらしてるだけか」
「そうそう、俺はいつもへらへらしてるからなー……って、いくらなんでもヒドイだろーッ!」
見事なノリツッコミだった。
久々に凪のツッコミという名目のアッパーが腹に入る!
「ごふっ……!!何してくれるんだコノヤロ」
「まあまあ二人とも落ち着いてー」
どうどう、と口走りながらも俺達をなだめる鬼負。
どう考えても鬼負のせいで話がこんがらがるような展開に
なったんだが、気にしてはいけない。
俺らも悪いしな。
そんな、実によくあるコミカルな朝の一時に。
「おっはよーん!」
元気な声が放たれた。
「ん?朝からテンション高いな」
そんなことを凪が言いながら―――振り返る。
俺は何も言えずに、ただ瞬時に振り返る。
その声に、聞き覚えがあったから。
でもそれは、そんなはずないことで。
「誰だ、あの子?」
こてん、と小さく首をかしげる凪。
みんな、教室内の人間は動かない―――動けない。
来訪者もこてん、と首をかしげ返した。
「あっ、キミが昨日休んでた白垣 凪くん?」
「じゃああんたが転校生かー、よろしくな」
にこっ、と笑いあい背後に花畑を出現させん、と言わんばかりに手を握りあう。
そんなことって、と俺達は動けない。
「私、積雲 雨月といいます!こちらこそ、どうぞよろしく!」
昨日からは想像できないハツラツとした笑顔で、積雲は返した。