創作

□虚像を映す水曜日
1ページ/5ページ




その日は朝からプールの水を流れ落としているかのような強い雨が降っていた。


「おはよう」

「おはよう、凪」

家を出ると数メートル先で偶然凪と落ち合った。

いつも通りの予定調和。


「昨日、秋和からメールが来たんだ」

「え?」

何気なく言われて思わず聞き返す。

秋和といえば昨日凪と一緒に会いに行きたい、と話していたから。

タイミングがよすぎる。


「で?」

「今は面会拒否なんだってさ、だけどこのままいけば金曜には学校に来れるらしい」

「秋和が学校に!?」

それが本当なら何ヵ月ぶりかの登校だ。


「金曜、俺らに秋和が日曜に、どこでなにやってたか教えてくれるって」

「……“女神になった”発言についても説明するって言ったか?」

ああ、と凪は傘で顔を隠すようにしながら言う。


「全部、教えてくれるってさ」

真実が語られる金曜日までの間は短いようでいて、長い。

まだ水曜の朝だ。


「梨夢は、秋和は何をしていたんだと思う?」

「さあな何とも言えんが……女神になるために何かしていた、とか」

「お前、秋和が女神になった、って本気で思ってんのか!?」

凪の口調が想像以上に強くて、口ごもる。

ここで口ごもってしまっては、元も子もないのに。


「……秋和は俺らに嘘をついたことなんてないだろ」

「確かに梨夢は嘘つきだけど」

「何故俺が嘘つきだという話しに移行する!?」

こんな局面で引き合いに出されるとは思いもしなかった。

俺ってそんなに嘘つきなイメージがあるのか?


「全ては金曜に分かるんだ、そんな気にやむなよ」

「分かってるけど……」

隣を見ると、いるはずの凪がいなくて慌てて後ろを見る。

凪は立ち止まり、傘を地面に下ろしていた。


「何してんだよ……風邪引くぞ?傘させよ」

「梨夢は秋和を信頼してるよな……」

「はあ?」

お前らの無意識ラブラブっぷりには及ばない。

てっきり、凪は秋和を信じて疑わないものだとばかり思っていたから。




「―――俺にはそんなこと、できないよ」

呟くようにうめくように、低い声で絞り出すかのように言うと、ダッと駆け出してしまった。


「おいッ、どこ行く気だよ!?学校は!?」

「知るかッ!!」

小さく坂に消えていく凪の背中を目で追う。

追いかけた方がいいのだろうとは、ぼんやりと思ったけれど。


「……お前は俺を羨ましがってるのかもしれないけど、俺だって」

お前のことがずっと前から羨ましいよ。

お前のようにはなれない。

なりたいけれど、それは不可能だと理解している。


「俺は卑怯な臆病者なだけだから」

な、現にお前を追いかけることすらできないんだぜ?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ