創作

□虚像を映す水曜日
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「おはよー、朝から大変だったねー」

「何がだよ」

教室に入ると、例のごとくすでにいた鬼負がぴょこぴょこと
ツインテールを跳ねさせながらやって来る。

そういえば昨日は鬼負と話さなかったな、と何となく思い出す。


「何が、ってつれないなあ、野分くん。今朝の白垣くんとのことだよ」

比較的大きいのであろう目を、わざわざ細めて意味深に告げる鬼負。

鬼負はどうしてこうも、動作の1つ1つがわざとらしいのだろう。


「大変だったね」

「……見てたのかよ」

「いや、見てないよ?ただ偶然知ってただけ」

この数分の間で、どう偶然知ることができたのだろう。

やはり、わけが分からない。

食えない奴。


「のねな……ちゃ、ん」

鬼負はそう思っていなさそうだが、気まずい空気がながれる。
(何たって鬼負はにやにやしてるから)

そんなときに声が掛かった。


「おはよ……う」

「あっ、うーちゃん!おはよー」

え?積雲?

驚いて見ると、そこには鬼負の言う通り積雲の姿がある。

だが昨日の……ハツラツとした元気は、明るい雰囲気は微塵も感じられない。

転校初日目の時のように小さな声で、つっかえつっかえ言葉を吐く。


「野分くん、も……お、はよぅ……」

「おう……」

昨日の空元気とはうってかわったこの様子に、熱でもあるんじゃないかと思う。

純粋に、お前大丈夫か?と聞きたくなる。


「今日は雨だねー、大変だよね、うーちゃん」

「そう……かな、私……雨、嫌いじゃ、ないよ」

「そうだったね、うーちゃんはうーちゃんだからどんな天候でも嫌っちゃダメだったね」

笑いながら会話する2人。

意味の分からない話をしているように思えるのは俺だけだろうか?

積雲は積雲だから、どんな天候でも嫌ってはいけないだなんて。

どんな独断と偏見でモノを言ってるんだ、鬼負。


「野分くんはどんな天気が一番好き?」

「俺?……晴れ、かな」

やっぱ、いい天気というと晴天を指すし。


「へー、ねえ、うーちゃん!」

「な、に?」

鬼負の俺のあしらい方が適当だった。

そんな適当にあしらうくらいなら俺にそんな質問するなよ!?


「そろそろ言わなきゃ、昨日で随分疑われてるよ?」

「う、うん……分かってる、けど……タイミ、ングが……」

もじもじと照れながら、顔を伏せて言う積雲。

こいつちゃんと話せるんだな。


「タイミングのせいにしちゃダメだよ、朝のHRの時に言おう?」

「う……ん、分かった……」

嫌そうに眉をひそめながらもうなずく積雲。

完全に俺は場違いな気がしてならないが、俺の席で話してるから仕方ない。


「野分くん、」

擦れ違い様に鬼負が。

屈んできて俺の耳元で小さくささやく。


「現実見なきゃ、死んじゃうよ?」

「っ!?」

異様なシチュエーションに刹那動けなくなったものの、振り向く。

そこにあるのは当然のように鬼負の背中で。

言い当てられたことに対して、俺は目をつむるしかなかった。
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