創作
□賽を投じる木曜日
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変な夢から目覚めた俺は定時に家を出ると、凪に出くわした。
「おはよー、今日は昨日と違っていい天気になってよかったよな!」
この調子で明日も晴れて秋和の退院を空も祝ってくれればいいんだけど、と朗らかに笑う。
……あれ?
昨日のことはガンスルー?
「大丈夫か、梨夢?昨日は大変だったんだってな、メールで鬼負+αから聞いたぞ」
「+αって誰だよ、何で鬼負以外は名前を伏せるんだよ」
「あ、やっと食いついてきた。梨夢のツッコミの技量を試したのさ……」
意味不明だ、何だこのやり取り。
何はともあれ凪は機嫌を直してくれたようだった。
「理科の授業、実験したんだってな」
「+α無視かよ」
「爆発事故はちゃんと起こしたのか?」
「………」
起こしてたらここにいねーよ。
病院内にいるのは確定だ。もしかしたら集中治療室にいるかもしれない。
そして少年Aとして、目の所に黒色の棒が入った顔写真と共に地方紙に掲載されるだろうな。
凪と友達なのかどうか、よく分からなくなってきた。
「冗談はこれくらいにしといてさ、」
「どうせまだ冗談は続くんだから、無駄に期待をあおるようなことを言うな」
「積雲さん、多重人格者だったの?」
「………そうらしいな」
言ったら普通に真面目な話をされてしまった。
冗談は本当に終わらせたのか。
天の邪鬼め!
「なんだー、本当なのかー。つまんねーの」
「人の病を『つまんねー』とか言うなよ」
「どうしたんだよ梨夢、俺をバカにするのも大概にしとけよ?
多重人格が病気だってことくらい1ヶ月前から知ってたぞ!」
割りと最近知ったんだな。
ちなみに多重人格、正しくは“解離性同一障害”という。
……“障害”と“病”とは違うから多重人格は“病”とは呼べないか?
そこら辺はよく分からないけれど、雑談の中では“障害”でも“病”でもどちらでもいいか。
「でも急に変わったって感じは、無かったよな」
「何が?」
うーん、とうなって。
登校中にする話しでもないだろうに、凪は続ける。
「雰囲気、が。よく言うじゃんか、『雰囲気が急に変わって人格が入れ替わる』とか」
「そうなのか?」
「あれ、俺の思い違い?」
俺はそういうことに疎く、よく知らなかったが、そういうものなのだろうか?
確かに積雲の人格入れ替わりは、日替わりのような、そんな印象。
「……天候?」
昨日見た夢でも言っていた言葉が蘇る。
あの鬼負の、意味深な言葉。
『随分と天候に振り回されてるのね。それを多重人格とは……よく言ったものね』
天候に振り回される、とは。
一体どういうことなのだろうか。
「だけどまさか、夢で見たことを本人に問い詰めるなんてできないしな……」
「ん?さっきからボソボソ喋ってどうした?根暗キャラに転向か?」
「うっせえ、独り言くらい良いだろ」
何はともあれ明日には万事解決するだろう。
俺たちは意気揚々と校内への一歩を踏み出した。