創作

□賽を投じる木曜日
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「おっはよーう、野分くん、白垣くん!」

今日はすでに教室にいた積雲が、俺たちが扉を開いた瞬間に大きな挨拶をしかけてきた。

どうやら今日は“ハイテンション積雲”らしい。

人格は6つあると言っていたが、また一昨日の人格になっているのだろうか?


「おはよう、今日も今日とて元気いいね、積雲さん」

「そーかな?あはははっ!」

元気よく、というかバカっぽく笑う。

昨日までのモジモジはどこいった、と思ってしまうのは仕方ないだろう。

どっちも積雲なのは、分かっている……つもりだ。

だけど、理解はできない。

同じ“ひと”の性格がここまで急に変わることに、慣れない。

雰囲気がいくら違っても、どれだけ行動が自然でも。

共通する部分が無いはず、無い。


「そういえばちょっと気になることがあるんだけどね、
 タイミングいいから聞いちゃってもいいかな?」

「おう、何だ?」

不意に、あっ、と短く声をあげた積雲が心なしか早口に言う。

明るいノリに同じようなノリで返す凪。

そういえば凪はまだ、明るい積雲にしか会ったことがないよな、と何となく思う。

だから、受け入れられるのだろうか。

知らないから。


「2人は高校、どこを受ける?」

「「え」」

予測していなかった質問に、思わずハモる。


「やっぱ有名進学校?それとも小説にありがちな“青春を謳歌”できそうな
 部活に思いきし力を入れてるマンモス級の私立校?」

「マンモス級って」

“マンモス校”とは言ったりするが“マンモス級の学校”とは言わないだろう。

そこはあえてスルーだけど。


「俺は一応、第一希望は『凍解(いてどけ)』かな」

自慢気に鼻をならしながら凪が間を空けずに答える。


「……いて?」

積雲は首をかしげたが。

転校してきたばかりの奴に高校を略称で話す方がおかしいので、当然の反応だ。


「私立凍解学園高校。なら、分かるだろ」

「あー、あのお嬢様大学の直属の高校!?」

お嬢様大学とか言わないで、と何故かそこだけ否定する凪。

小・中・高・大学と全ての学校教育機関のそろう、珍しい私立高校である凍解学園だが、
何故か大学のみは女子校として名を馳せている。
(小・中・高は共学。)

大学のみ有名なのは、学力が県内屈指なためであろう。
(高校は中の上くらい。)


「白垣くんは私立狙いかあ……野分くんは?」

「俺は公立狙いだよ、金無いし」

「校名!ね、校名言おうよ!?」

ずいっ、と無意識であろう、距離を狭めながら聞いてくる積雲。

非常に……非常に言わない俺が悪いかのような気にさせられる、シチュエーション。

気まずくなって視線をずらすと、腹にアッパーを食らった。


「ごふっ!?」

「速く言えよ、カッコつけんな。見ててイライラするから」

「っう………」

腹を抑えて机に片手をつき、何とか立ったままの体制を保つ俺。

何故か凪にアッパー食らわされた。

理由が理不尽!


「……市立果永(はてなが)高校だよ」

「あ、私と一緒!」

何が楽しいのか、口元で両手の平を合わせて笑う積雲。

転校生だしまだ高校決めてないかと思ったのに、もう決めてたのか。

というか決めていたなら先に教えろ。

人のことを先に聞こうとするなよ。


「そっかー、野分くんも果永かあ」

ふふ、とまた思い出したかのように笑って。


「みんな受かると、いいよね」

教えてくれて有難う、と最後は無難に締めくくった。
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