創作
□相見える金曜日
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微妙な、だけれど確実な情報が俺の元に提供されたはいいものの
残念かな、それには代償があったのだった。
得るものの存在は大きかったが代償も大きかった。
それはすなわち、教師との個人面談である。
個人面談。
響きから嫌な感じだ。
半濁音が2つも、韻でも踏むかのごとく存在するし。
担任にこの時期になって
『受験に疲れたからって転校生に迫るだなんて、意外と男を見せるんだな野分』
とか言われるなんて。
先生、それはどういう意味ですか。
体調不良者に迫る、って。
俺が女子に迫る?
天地がひっくり返っても返らなくても、有り得ないな。
そんなこんなで下校は通常より1時間近く遅れ、俺は塾の教師にも
『学校の先生に質問するのは大変いいことだとは思うが、塾の先生にだって
全然質問をしてくれて構わないんだよ野分くん、さあ!』とか意味不明なことを言われるし。
そんな疲れる木曜も終わり―――いよいよ週末。
秋和が久々に来る日。
金曜日が幕を開けた。
***
「たッ、大変だァ起きろ梨夢ぅぅぅ!!」
「わぎゃ!?」
凪に叩き起こされた。
人生初の寝起きドッキリか……、と8ビートを依然として刻み続ける心臓をおさえ
周囲を確認するも、『ドッキリ成功』の文字は無かった。
やっぱりな、現実はドッキリなんて易しいものじゃない。
ドッキリというかバクバク、とかドッドッドッ!みたいな。
「そんな潰されたカエルみたいな声出してないで、俺の話を聞いてくれ!
秋和から……秋和からメール来たんだ!」
「今は何時だ?」
え、とケータイをパカッと開いて現在時刻を確認する凪。
「……4:23だけど何?それよりも秋和がな」
「黙れ帰れ俺は寝る」
「ちょっ!?梨夢!?」
ふとんを頭の先から足の爪先まですっぽりかぶって、完全防備。
何なんだ俺と凪がいくら幼馴染みだからって朝4時からの訪問はタブーだろ。
せめてアポとってからにしろ。
「起きろって梨夢!起こし方がマズかったなら謝るから!
こんな時間から来たことに怒ってるならそれもついでに謝るから!」
「自覚ないのかよ」
あーもうグレてないで話を聞いてくれ!と大声で言って
凪は力強く一気に俺からふとんを剥ぎ取った。
「…………」
「でさあ秋和が!」
ふとんに座り込んで話を無理矢理聞かされる。
悟りを開けそうだ、修行僧みたいに。
今の俺の心境は修行僧にしか分からないだろう。
修行僧になったこともないし適当なことを思っていると、凪は本題に入り始めた。
本題に入るまでのわめきが長すぎる。
「秋和から『先に学校に行くから梨夢と学校行ってあげてね』なんてメールが
送られてきたんだ!これは一体なぜ!?秋和はこの時間から学校に向かっていたのか!?」
考察を話の途中でぶっこまれても。
細かいことは何も分からなかったけれど、とりあえず事実だけは理解する。
秋和から、先に行くというメールが来た、と。
「そのメールが来たのが何時だ?」
「1時48分」
4時じゃないんだ。
「だからあ!さすがに1時に梨夢んち行くのは躊躇われたから止めようと
思ったんだけど、やっぱそんなメール来たら眠れなくなってさ!」
オールしようとしてるのか凪。
1時に来るのは躊躇うことができたのに4時に来るのは躊躇わなかったのは何故。
先に行く、なんて秋和も何で突然。
まだ眠気があるせいで思考がうまくまとまらないせいもあり、イラつく。
「とりあえずだが、凪」
「何か分かったのか?」
「6時までは家で寝てろ、俺も寝るから」
「いや、もうここまできたら起きろよ!?」
凪のうるさすぎるツッコミにも耐えて眠りにつく。
夢の中でまで凪に訴えられ目が覚めてしまったけれど、
俺は意地をはって6時までふとんから出なかった。