創作

□吐き出す土曜日
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翌日は分厚い雲が空を覆って、黒い雫を落としていた。

積雲は恥ずかしがり屋になってしまっているのだろうか。

会う予定がないから分からないけれど。

とにかく土曜日―――俺は凪の家に向かっていた。

ことの発端は先日の秋和の一言である。

昨日は、秋和が積雲と戦って。

負けた秋和は帰り道、俺に照れながらも言ったのだ。


「私このまま、凪の家に行く……行きたい。終わったら行くって、約束したし」

恋する彼らを止めるほどの野暮などするまい、傷ついた彼女を送り届け、
俺はひとまず気をきかせて退散したのだ。

……今考えてみれば、いくら幼馴染みだからといって
この年で異性の家に泊まるなんて暴挙が何故許されたのだろうか。

母さんたちの感覚が心配になる。


「何だか、久しぶりだよな」

「昨日からそればっかりじゃんかよ、梨夢」

ともかく雑談。

他にも何か言えよー、と凪にどつかれるけれど言葉が思い付かない。

昨日は、まだイザコザがあったから。

こうして何もないのに会って話すことが、妙に嬉しく感じられる。


「そうだ秋和、風の女神様になったんだろ?具体的にどんなことができるんだ?」

ケンカというか戦いというか、昨日のアレを見ていない凪は興味津々、といった
面持ちで目を輝かせて問う。

秋和も秋和で楽しそうに笑う。


「アイオロスの力を使うんだけどね、まあ基本的には風向と風力を決めるだけだよ」

「いや何が『だけ』なんだよ、全然イレギュラーだよ」

いつもボケてる凪でさえもが驚いていた。

ノロケにしか見えないのは俺だけだろうか。

ああ何故だろう、早くも邪魔者のような気がしてならない。


「えっとね、このかんざしを使うの」

えい、とポニーテールのどこに差していたのだろうか、透明感溢れる小振りの、青色のかんざしを
すっ、と手に取る秋和。

そういえば積雲はサイコロだったな、とどうでもよく思い出す。

階段の踊り場で脅されたのは、記憶に新しい。


「ウサギが付いてるでしょ、ホラ」

「おう、これがどうかしたのか?」

丸い先端からチェーンに繋がれた青のウサギ。

ガラスで出来ているのだろうか、薄く精密なソレは蛍光灯越しに見たくなる。


「このかんざしを倒して、ウサギの倒れた向きで風向が。
 倒れるまでの時間で風力が決まるんだって!」

へーそんな仕組みなのか。

感心する凪だけれど、俺はアレ?と頭を抱える。

では昨日の、風を操り浮いたりしていたのは一体何だったのだというのか。


「梨夢、昨日のは特別だよ。負けたくないからって、力を乱用したの。
 要はズルに近いことしてたのよ」

まあ雨月だって天候を何もせずに変えてたし、おあいこだけど。

俺の目を見て、見抜くように秋和は言う。
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