創作

□変化する日曜日
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言葉に嘘は無かったらしく、凪は食後に数学のワークの問題を取り出した。

相似と合同と比と、何やらかんやら大変な応用問題を2人で必死に解くこと30分。

何とか模範解答と一致した解答を嬉しそうに見て、凪は帰っていった。

帰るときに『バイビー!』とか言ってたけど俺は気にしないことにした。


「あら、凪くん帰っちゃったの?」

「そりゃ、この時期は勉強しなきゃだし」

「この1週間、梨夢は遊んでばっかりだったじゃないの」

母さんは微妙に不服そうに口をとがらせる……ヤバい、退散するとしよう。


「じゃあ俺、勉強してくるから」

宣言して急いで自室に駆け上がる。

どこの家庭でもそうだとは思うが、母は怒ると怖いのだ。

しかし、まあ。

椅子に腰かけて改めて思う。

1週間、本当に色々あった。

この短い、1週間という中で少しだけ、自分という存在を肯定できるようになった気がする。

自分はこうなのだから、他人を羨んでも仕方ないと。

羨んで羨んで羨んで、羨み続けて……そう思えるようになった、ような。

それは神様だって完全じゃなく、人間に歩み寄るための制限を持っていたり。

羨み続けている幼馴染みに、実は自分が羨まれていたり。

そんなことが、あったからだと。

根拠もないのだけれど思う。

ただ漠然と思う。

変わることは難しくとも肯定することは難しくとも、できないわけじゃない。

肯定することができるようになったことで、自分は変われるんじゃないかと。

なりたい自分に、諦めずなろうとできるんじゃないかと。

思えるようになった。

自分は成長したのだろうか、そこはよく分からないけれども。

人は、自分では気づかなくとも寂しがり屋で。

誰でも少しは秘密があって。

そして、それでも誰かと笑いあいたくて。

自分も漏れなくそんな人間で、それはとても素晴らしいことなのだと思う。

仲間はずれなんかじゃない。

みんなそんな風に悩んで考えてるんだと。


「……やるか」

さてはて、こんなに思いを馳せていないで受験勉強に精をださなければ。

願わくば積雲や秋和と一緒に高校に通えるように、シャーペンを握り直した。



 変化する日曜日・END


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