創作

□FLRG旅立ち
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そんなことがあってからも、私とファイアとリーフの仲はそう荒れなかった。

兄さんとグリーンさんの関係は悪化したとしか思えないけど。

去っていった兄さんの行方を知る人は、いなかった。

兄さんに放浪癖があるのはみんな知っていたから、1年経つまでには帰ってくるでしょ、と。

最初は誰も気にしなかった。

けれど1年経っても、帰ってこなくて。

2年経つ頃には、ジムリーダーになりたてで忙しいはずのグリーンさんも心配して、探してくれるようになった。

3年経って、風の噂で、ジョウトで復活しかけたロケット団が滅ぼされたと聞いた。

グリーンさんが兄さんじゃないか、と見てきてくれたけれど、どうやら違ったらしい。

警察に捜索届けを出した。

4年目の春、私たちは旅に出ることを許された。

だけどまだ、兄さんは帰ってきていない。


「……アクアが、暗いな」

ピンポンピンポン、何度もインターホンを鳴らしてきた(非常識だ)リーフは、
オーキド博士の研究所に向かう予定時刻よりも一時間も早く家に来た。

いわく、迎えに来てやったのだとのこと。

ファイアが、待ちきれなくて来ちまったんだな、と言うと
否定したけれど、きっと待ちきれなくて来たんだろう。

リーフは分かりやすいから。

そんな分かりやすいリーフに“暗い”だなんて言われて、私は少々ムッとした。

旅に出たくないから暗くなるのだって仕方ないじゃない、と
言えもしない言い分けを口の中でモゴモゴ呟いた。


「そうか?アクアのことだから、旅に出てからどうしようとか悩んでるんだろ」


「あー、そっか。まあ俺にも分からないこともない」


介入してきたファイアの言葉に、うなずくリーフ。

そんなに心配性だと思われてるのか、私は。

自分がそんな風に見られているとは思わなかった。


「大丈夫だって、最初のポケモンはアクアに先に選ばせてやるから!」


「お、リーフ太っ腹じゃねーか」


だろう、と威張るリーフに、じゃあ二番手は俺な、と言って笑うファイア。


「はあっ!?俺にも選ばせろよ、ファイアは最後でいいだろ!?」


「ひでえな、アクアは先で、何で俺が後なんだよ」


「子供かよ!ここは俺に譲れよ!」


低レベルすぎる争いを始めた二人にため息を贈る。

二人らしい会話なんだけど、数年前と言い争うレベルがあまり変わらない気がする。

私は別に、ポケモンを選ぶのなんて最後でも構わないのだけど。

こんな下らない、当たり前が、幸せだ。

旅に出るのがまた嫌になる。

旅に出てしまったら、ファイアにもリーフにも、会えない日が続くのだから。

そんな優柔不断な自分が一番嫌になる。

どんなに変わりたくなくとも変わる日常を受け入れようと、私も旅に出ると、自分で決めたのに。

人の決意なんて、簡単に揺らいでしまう。


「そろそろ行くか」


オーキド博士の研究所に来るように言われている時間から、15分程前になったころ。

ファイアは時計を確認して、下らない会話を終わらせた。


「だな。よしファイア、競争だ!」


「は?言い出しといて大丈夫なわけ?俺に勝てるとでも思ってるのか」


「んだとファイア今日こそは俺が勝つかもしれないだろ!」


終わったと思ったのに、また下らない会話を始めてしまう。

走って先に行ってしまう二人。

言い争いながら走っているのか、競り合いながら小さくなる背中。

意地っ張りですぐに競いあうんだから。

取り残されたようで悲しくなったけど、母さんにいってらっしゃい、と笑顔で見送られて、つい笑顔を浮かべてしまう。

気分を切り替えなくちゃ、今日は門出のめでたい日なんだから。


「待って!」

届かずとも叫んで、私も駆けた。












(日常と別れるのが辛いと、何故二人は思わないのだろう)




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