創作

□FLRG旅立ち
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クチバの港で。

ジョウトより降り立ったトレーナーを、北風の化身が見ていた。



   ***



オーキド博士の諸注意やお小言もそこそこに、「いーから早くポケモン選ばせてよ、そんなこと分かってるから」と
リーフが文句を言ったせいで予定より30分遅れて、私たちは研究室に通された。

普段、待合室にしか入れてもらったことが無い分、新鮮だ。


「アクアからだよな」


リーフが譲ってくれたけど、特にこだわりもないので丁重にお断りした。


「じゃあ俺からか」


ニヤ、とリーフに意地悪く笑ってポケモンの前に出るファイア。

競争でもらう順番を決めたのだろう、やりとりする様子が目に浮かぶ。

リーフは悔しそうにファイアを見ていた。


「おし、俺はこいつに決めたっ!」


ファイアが手にしたのはフシギダネ。

何となく名前が炎だしヒトカゲかと思っていたので驚いた。


「よろしくなー、フシギダネ!」


「俺も選んでいいか!?」


頭を撫で、ポケモンと触れあい仲良さ気に笑うファイアに、フシギダネも甘えたような声を出す。

それを見て、羨ましくなったのだろうか。

リーフもそわそわと、言い出した。

別に私は最後でいいよ、と言えば悪いな、と言いながらも目茶苦茶嬉しそうにポケモンの前に立つリーフ。

そういう純粋な所は旅に出ても変わらないでいてほしいものだ。


「博士ー、ニックネームとか付けてもいいんですかー?」


「はあ?ファイアいまさらだなー、いいに決まってんじゃん。よし、俺はこいつだ!」


オーキド博士が言うよりも早く、リーフが答える。

あんまり調子に乗ると怒られるよ、と思ったけれどリーフは気付かない。

まあいいや、リーフがしかられるようなことをするのがいけないんだし。

我ながら冷たいことを思うなあ、と他人事のようにぼんやりと感じる。

リーフが抱き抱えたポケモンはヒトカゲだった。


「へへへー、俺はファイアには負けないぜ?」


「タイプ相性からくるとは……セコいなリーフ」


リーフの腕の中のヒトカゲがくあ、とあくびをした。

可愛いな、パートナーはトレーナーに似る、ってよく言うけどこの子はあんまり似なさそうだ。

……いや、マイペースな所とか、似る要素満載かな。


「じゃあ私はゼニガメですね」


ひょい、と抱き抱えると予想していたよりも軽くて驚いた。

ニコニコと明るく愛嬌を振り撒くゼニガメは、私と顔を合わせて嬉しそうに声をあげた。


「これからよろしくね」


抱き締めた小さな体は、とても温かかった。



   ***



旅立ちとは言っても、何もすぐ行かなくともいいものだ。

博士からいただいたポケモンを母さんに見せびらかせて、庭でファイアとリーフと、それぞれバトルをやってみた。

まだレベルが高くないからタイプ相性なんてあんまり関係無い。

ただのタイミングの問題のようなバトルはファイアが圧勝して、その場はお開きになった。

昼食を終えて、じゃあそろそろ行こうかな、とおもむろに言い出したのはファイアだ。


「俺はそろそろ行くけど、アクアも一緒にどうだ?」


「……うん、行く」


生まれてこのかた、私はこの片割れと、ほとんど離れたことがない。

ファイアも離れたくないと思ってくれているのかな、と思うと嬉しくて。

途中までくらい、一緒に行ってもいいよね。

甘えた気持ちには、気付かない振りをした。


「いってらっしゃい」


兄さんがいつまでも見つからないこの状況下で
私たちまでもが旅に出ることは、母さんにとって辛いことだろう。

だけど母さんは、私たちの気持ちを汲んでくれた。

ありがとう絶対帰ってくるから、と言うと、
母さんは泣きそうな顔で待ってるわ、と言って笑った。

元気付けようとしているファイアと母さんのやり取りを聞いているうちに、不意に泣きたくなった。

ごめんね母さん、でも絶対に私が兄さんを見つけ出すから。

それまで待ってて。

母さんの泣きそうな笑い顔が、忘れられそうになかった。












(結局どうしたらよかったのかは、いまだに分からない)




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