創作

□FLRG旅立ち
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旅立ちたくなんて、ないんだけど。

そんなこと誰にも言えないから、自分の思いは押し殺した。



 出発

   〜side・aqua〜



目が覚めると、ポッポの気持ち良さそうに鳴く声が聞こえた。

時計を見ると、セットした時間の30分前。

かち、と片手でアラームを解除して、窓辺に寄る。

台風よ、来い!

願いながら開けたカーテンの外には抜けるような雲ひとつない青空。

天気は良好、忌々しいほどに。


「……分かってたよ」


昨日の天気予報だって『雲ひとつない青空が広がるでしょう』と言っていたから。

さて、少し早いけれどみんな早いだろうから今から準備したって問題無いだろう。


「あ、起きてたんだ。早いな」


パジャマから、母さんの用意してた服に着替えようとしたら、何の前触れもなく扉が開いた。


「……!? ちゃんとノックして!」


私女の子なんだけど、と訴えればへいへい、と軽い謝罪であしらわれた。

突然の侵入者、ファイアは―――私の双子の兄でもある。

幼馴染みのリーフと一緒になって、今日の“旅立ち”をずっとずっと、楽しみにしていた。

……私は別に、楽しみなんかじゃないけど。


「……ファイアも、早いよ」


ひとしきり怒りを訴えてから会話を再開させると、ファイアはあからさまに嬉しそうに顔をほころばせた。


「当たり前だろ、今日から旅に出られるんだぜ!?ポケモンがもらえるんだかんな!?
 ワクワクしない方がおかしいだろ。な、アクア」


「……そう、だね」


ファイアが顔をほころばせたのは、今日から旅に出られるからか、私の説教(?)が終わったからか。

多分両方なんだろうな、とぼんやりと思った。


「アクア、」


「何?」


「前から思ってたけど、旅に出たくないんだろ」


さすが双子、ってところなのか。

ピタリと言い当てられて気まずくなって、思わず自然と視線をそらした。

よく見ればファイアはもう、母さんが今日のために用意してくれた服を着ている。

兄さんの……レッド兄さんのと似たような、赤と白のジャケット。

兄さんは今、どこで何をしているのだろう。


「私、」


ファイアは何も言わない。

こういう時だけ兄さんにそっくりなんだから、本当に。


「私、ファイアとリーフと兄さんとグリーンさんと母さんと、
 時々ナナミさんがいればそれで十分。……それ以外いらない、くらい。
 ここで暮らしてくみんなとの他愛ない生活が、大事」


だから旅に出たくない、と言うと、ファイアはひどく悲し気な顔をした。

やめてよ、ファイア。

ファイアにそんな顔、させたいわけじゃないのに。


「だったら、アクアは残ればいいじゃないか」


「兄さんが、いなくなったから」


ファイアは傷ついたかのように、辛そうにくちびるを噛み締めた。

やめて、そんなことしないで。

だから言いたくなかったの。

ファイアだって、兄さんが大好きだから。


「兄さんを探すために、旅に出たい。
 言ったら、図鑑完成は無理だろうって旅に出させてもらえないかもしれないから」


だからファイアにも言い出せなかった、と言い分けを重ねる。

ファイアは昔、泣き虫の私がよく泣いたときのように、私の背をさすってくれる。


「だから、旅立ちたくは無いけれど、旅に出る。そう決めたんだ」


「……そっか」


ぽん、とファイアの片手が私の頭の上に乗せられた。

ちょうど兄さんがよく私にしていたように、わしゃわしゃと撫でて。


「俺も探すの、頑張るから。アクアも、無理すんな…………な?」


念押しするような、願うような片割れの言葉に。


「…………ありがとう」


私はうなずいて、礼を言うことしかできなかった。













(置いていかれたくないなんて、付け足せ無かった)



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