創作
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速く、速く。
兄さんがいない間は、俺がしっかりしなきゃだから。
何とかしなきゃ、いけないから。
速く、速く。
誰よりも速く強くなれば、何とかできると信じていた。
心配の伝染
〜side・fire〜
アクアは心配性で怖がりだ。
変わりたくない、だなんて、人は変わるものなのに。
現にアクアだって変わった。
けどまあ、そんなこと言えもしないから俺は慰めたんだけどな。
自分の妹とは思えないほど色々考えてるよな、アクアって……。
1番道路を抜ける頃にはもう、白く冷たい月が頭上で輝いていた。
「こんな時間になっちまって悪いな、アクア……。
つーかアクアはポケモン、ゲットしなくていいのか?」
「……まだゼニガメと、仲良くなりきれない」
「ふーん」
妹だけど、アクアってよく分からない。
旅する、まだ見ぬ仲間との出会いを楽しみにしていないとは思えないけれど、
俺がキャタピーやらポッポやらを捕まえるなか、撃退しかしないアクアはなかなか怖かった。
瀕死にしたなら十分だからな、アクア。
それ以上攻撃するなよ!何で無表情なんだよ!
「ポケモンセンター、泊まろ」
はあ、と日中のことを回想してため息をつく俺に言うアクア。
双子って以心伝心できるらしいけど、俺は信じてないぞ。
双子だけど、俺たちは2人の人間だ。
考えてることなんて、わからないことの方が多かった。
***
「「あ」」
「よっ!遅かったな」
ポケモンセンターに入るとすぐに、リーフがいた。
いや、正しくはグリーンさんもいたけど、リーフがいるインパクトで霞んで見える。
グリーンさんに失礼?ごめんちょっと意味がわからない。
とにかく。
何してんだコイツ。
別れ際にあんだけキャンキャン吠えといて……再会するの早すぎないか?
「グリーンさん、こんばんは」
「よう、アクア。相変わらずみたいだな」
「……グリーンさんも、元気そうで何より」
当然のようにリーフを無視して話すアクアにグリーンさんはちょっと困り顔。
自覚ないみたいだしな……しかしまあ、アクアも単語しゃべり止めろ。
アクアが話すたびに、グリーンさんの瞳が揺れる。
アクアの話し方と兄さんの話し方は、どことなく似ているから。
「無視すんなよ!兄妹そろって俺を無視とか、何だよその仕打ち!」
「……リーフは別に、久しぶりじゃ、ない」
「挨拶くらいはしてくれよ、むしろ頼むから!!」
リーフうるさい、と迷惑そうにプイと横を向いてしまうアクア。
ったく、アクアはリーフを子供っぽすぎるとよく言うけれど、アクアもアクアで子供っぽい。
俺も含め、実際子供だけどな。
「久しぶりッスね、グリーンさん」
「1年ぶりくらいか?てか、お前最初のポケモン、フシギダネにしたんだって?」
「あ、うん。“ニコ”って言うんですよ」
「ニックネーム付けてるのか!俺、付けたこと無えんだよなあ」
何でか知らないが、ニックネームを付ける人はあまりいない。
兄さんも付けて無かったし、アクアもリーフも付けてないし。
「で、リーフ。お前、何の用だよ」
「グリーンと話してたときの和やかさが一切無いな!」
リーフがうるさい、とアクアが切に訴えだしたもんだから、仕方なくリーフにも話を振ってやる。
当たり前だろグリーンさんとリーフは違うんだから、と言えば
何か色々おかしいだろそれ!とわめくリーフ。
うるさい……アクアの気持ちも分かる。
「グリーンさんとリーフに差があって何か悪いことでもあるのかよ」
「くっそバカにしやがって……!絶対ファイアにだけは負けねえ……!!」
地団駄踏むリーフは、ちょっとさすがにうるさすぎる。
当然のようにコツン、とグリーンさんからげんこつを食らった。
「いってえ!何すんだよグリーン!」
家庭内暴力だ、DVだ、と騒ぐ。
一段と騒がしくなった……それにしても公共の場で、騒がしすぎる奴である。
空気を読め、せめて場を読め。
本格的に怒ったグリーンさんがリーフの腹にグーパンチをお見舞いすれば、静まり返るその場。
いつも通りの風景だけど、相変わらずグリーンさんは弟の意識奪うの早いッスね。
……いや、どんな兄弟だよ。
「お前ら、今日はここに泊まるつもりなんだろ」
「はい、トレーナーならポケモンセンターってタダなんですよね」
「それもいいけど、よかったらお前ら」
俺の借りてる家が近くにあるんから、来ないか?
カントー最強のジムリーダー様の家。
提案に、しばし戸惑う―――俺はただの、一介のトレーナーだから。
「行きたい」
つん、と俺の服の袖を引っ張って、俺にだけ聞こえるように、耳元で呟くアクア。
俺の気持ちも汲んでくれるらしい、グリーンさんに直接言わないのはそういうことなんだろう。
「行きます!」
結局俺もアクアに弱いのかな……アクアの楽しそうな表情を久々に見れた気がして、嬉しかった。
▽とうぜんの ように すすまない!
すみません。