創作

□私を許して
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うわあん、何て無様な言は吐かない。

駆け込んで入った、出口に一番近いトイレに隠り、
作られた水音を流しながら、ぼたぼたと涙を零した。

バカバカ、バカ!死んじゃえ!

落ちる雫が床で弾けた。ここでこうやって涙を流すのも、もう何回目だろうか。

可笑しいな、高校生活は希望に満ち溢れていて、
楽しいものだと信じて、疑っていなかったのに。

わざわざぬぐう必要もない、個室のトイレには。

私しか、いないのだから。

無様な醜態を晒す危険性は、無いのだから。





学校に居残ろうと思ったのは、実は下心がバリバリあったからである。

友達という存在が元から少ない私だが、中途半端ながらに
高2から心機一転、変わろうと。

元から仲が良かった友達(といっても1人だけど)以外にも、
新しく友達を作ろうと決意したのである。

しかし極度の対人恐怖症をこじらせている私が、他人に話しかけられるはずもない。

悩んだあげく、授業後居残る生徒に「この問題、分かる?」と話しかけるくらいなら、
自分にもできるんじゃないかと。

たった1人の友人が前から居残りをしているし、自然に居残りできるはずだ!

いいわけを用意したり、話しかけても自分があまり話さなくていいような内容を
選んでいるのが我ながら情けないが、気のせいだよね!






……うん。

居残りをして気づいたのは、自分の浅はかさだけだった。

人気者の私の唯一の友人は、他の友人と居残りをしていた、だけだったのだ。

自分以外にも、彼女には。たくさんの友達がいるんだ、なんたってあの子は。

学級委員に推薦で選ばれちゃうくらいの、人気者なのだから。


「ねえねえカエデ!この問題分かる?」

「あ、ここは普通に日本語訳して……ほら、1年の時に習ったじゃん、話法のやつを使うんだよ!」

「うわあ、すご。さっすがカエデ、天才だわ〜」

「そんなことないし、バカだし私!」

実に楽しそうな、唯一の友人―――カエデとその友人の声が、少し前で聞こえる。

落ち着け、自分。

声なんて、簡単に掛けられるはずなんだ、カエデと話してる今と、
自分と話す態度が違っても、動揺するな!




よし、タイミングを見計らえ!




きゃはは、と楽しそうな笑い声が飽和する教室内に、溺れる。

私だって混ざりたい、だけど声を掛けるのが怖いんだ。

嫌われたくないから、嫌われないように関わらないんだ、でもそんなのもう嫌なんだ!

ガリッ、手元が狂って、シャーペンがゆるやかな円を描きながら落下した。

転落、自分も一緒に落ちてしまいたい気分だ。

1人、気付かれないままにシャーペンを拾う。

何だか涙が零れそうだった、自分の不甲斐なさが歯がゆくて。


「…………」

我慢して、覚悟して、頑張って、努力して、だけど逃避して投げ出して。

帰ろう、もう。




自分のせいでしかなくて、自業自得だけれど、

この空間はあまりにも、今の私には過酷だ。




辛くて厳しい現実世界に、過呼吸になりそうになる。

帰り支度をせっせと終えて、教室の扉に手を掛ける。

最後に、一言でも。

誰に対してとか、そういうんじゃないんだけど。

『さよなら』くらいなら、言えないだろうか―――。



「さ、」


「あれ、ドナ帰るの?」


扉を開き、教室を見渡して最後に、言おうと顔をあげて。

彼女に、声を掛けられた。



私のただ1人の友人にして唯一で、ほんとうに頼りっぱなしな彼女は、私に声を。





カエデは。





「じゃあね、バイバイ!また明日」


「………………うん」


それだけ吐いて、苦しくて仕方ない空間に、ゆっくりしっかり封をした。

怪しまれない程度に、廊下を歩いて。

歩いて、歩いて。

堪えきれなくなって、駆け出してしまう私は、きっと誰よりも弱い。

駆け込む先は情けないけど、通いなれたトイレだ。

しかも通いなれているのは本来とは別用とのソコに、
我ながら涙が出るのに笑いそうになった。

鍵が掛かる、時間がかかっても怪しまれない場所はここだけだからね。




多分これからも、私はたくさんここに隠って無様に泣くだろう。

だけど止めないで、だってここしか逃げ場は無いの。




「ああもう、私なんて死んじゃえばいいのに」


親友すらも嫌悪し出す自分が、堪らなく嫌だった。





 私をして

 (こんな醜い私だけど、どうか許してくれないか?)














く、暗いだと……!
1度は没にした「私を許して」なので改正版ですね!ディアスキアの花言葉なのにディアスキア出ないね!

没ネタに没にしたのがあります。

6000Hit感謝文なのに暗くてごめんなさい。

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