創作
□正しい魔導書の使い方
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『っさいっての!黙っててよ!
ていうかさ、今、私が呪文唱えようとしたの分かってて魔導書取り上げたんでしょ、このハゲ!!』
5月1日、午前8時15分。
放送室から届いたであろう、やけに中二くさい怒声を耳にして、
学校中が静まり返ったという。
放送事故かと思いたかった。
しかし、俺には残念なことに、そうは思えないゆえんがあるのも確かだった。
…………誰がアイツを姉となんか、認めるものか。
魔導書の正しい使い方
校長室に呼び出しを食らったらしい。
とばっちりで飛んできた火の粉は俺に移ったらしく、はた迷惑なことに担任に
俺も校長室に来るよう言われた。
何の罰ゲームなのだろうか、これは。
以前から姉が中二な方向に全勢力を傾けていってしまっていることを
薄々とは感づいていたものの……こんなことになったのは初めてだ。
できれば校長室に呼び出しなんて一生体験したくなかった。
俺は何も悪いことしてないのに、クラスメイトに絶対勘違いされただろうし!!
「失礼しまーす……」
「我が信ずる道はただ1つ、イスタンブールを経由して我が元に現れよ!朱雀・フェニックス=ライボルト!!!」
「…………。」
何て言うか、痛々しかった。
何でイスタンブールを経由するんだ。
しかも朱雀なのかフェニックスなのかライボルトなのかわけが分からない。
ライボルトってポケモンだし。
とにかく、自称「魔導書」であるポケットサイズの百科辞典を片手に、
決めポーズ(仁王立ち+右手で顔隠す+左手で構える+顔は斜め下)で校長に叫んでた。
姉さん、まだやってるんだね、だから俺が呼ばれたのかそうかそうか。
理解はしたが、帰りたくなった。
校長も困惑している。
「あれ、ゼクじゃん。どうかしたの?
あ、ゼクも魔導騎手としての自覚が芽生えて、ダンジョン攻略を手伝ってくれる気にn……」
「姉さん、何度も言うけど俺の名前、勇李(ゆうり)だから。ゼクとかいう変なあだ名で呼ばないで」
「えー、ゼルダ意識したのにー……」
「ゼルダやったことないし、俺、似てないだろ」
「私もやったことないけど?えーでもさー、似てるよ?
金髪にしてカラコンして、緑色の服着たら!きっと!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ姉さん。
五月蝿いな、もう……そんなだから校長室に呼び出されるんだよバカ。
黙らせるためにとっておきの言葉を吐く。
「ホイミ」
「!! 回復魔法だと!?」
驚愕の表情で固まった。
自称・竜から堕ちた黒い魔導遣いにして世界の救世主、なだけに
回復魔法系は毒にしかならないんだとか。
無駄に凝ってるらしい設定だ、さすがは中二!
「姉がすみませんでした。申しわけありません。何があったか教えてもらえないでしょうか」
「ああ……今朝だな、」
俺を見て、ようやく会話ができる人間に会えた、とホッとしたような表情を浮かべる校長。
なかなか分かりやすく失礼な人だ、よく校長職に就けたな。
校長の無駄に長い話を簡略化すると。