創作

□なきむし の いいわけ
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――――あ、ヤバい、かも。

そう思ったのは数学の授業も始まったばかりの、午後一の授業を受講中の時のことだった。

さっきまで普通だったのに。

お昼の弁当だって、確かに文句も言ったけど……全部、食べたのに。

もしかしていましがた返却された「マズい」としか言えない小テストのせい?

笑えない冗談はおいておいて、これは本気でヤバいよ?

何だか教壇で話す先生の声が、遠くに聞こえる。

それに血の気が引くのが分かる。

――――だから、ヤバいって。

気付いてもなかなか言い出せない、どんどん悪化するけど。

誰も気づかない気づかれない気づいてくれない。

――――もう、限界だ。

話が一段落ついた所で、先生、と呼び掛ける。

口はパサパサでカラカラに乾いてしまっていて、視界も何でか薄暗くて。

出た声が先生にちゃんと聞こえたか。

意味が通じるかも、分からない。


「? どうかした?」

「あの、気持ち、……悪くて、だから、その、」

自分では必死に伝えてるつもりなのにも関わらず。

小さくしか出ない声。

自分の声が先生の声より小さく聞こえる、言ったはずの言葉はもしかして、私にしか分かってない?


「あ、トイレ?行ってきてもいいよ」

「………は、…い」

トイレじゃないです、なんて言う暇も惜しい。

メガネを机に置くのも惜しい。

気持ちが悪くて死にそうだ!

今すぐ床に倒れこみたくなる衝動を抑えながら、必死に前進する……
本当は保健室に行きたいが、それは先生にきちんと伝えなければいけないだろうから。

そんな元気、私にはなかった。


「……っ!痛い、痛い痛い痛いっ!!」

とりあえずは座敷のトイレに入って、座り込む。

おなかまでもが痛んで、ガンガン鳴る頭がもう限界なんだと言うようだ。

――――もう、座ってるのなんて無理!

トイレの床に倒れ込むのはさすがにためらわれて、廊下にスライディングのごとくなだれこむ。

女子が廊下に倒れる、というか寝転ぶなんて、私的「素敵女子像」からはほど遠かったが。

背に腹は変えられない、だってほら、大分楽になってきた。


「痛いっ……痛い、痛いよ…………」

授業中の廊下は、案外静かで自分の声が響いて虚しくなる。

――――これだけ静かなら、教室に届いたっていいくらいなんじゃ、ないの?


「痛いよ…………」

滲む廊下で一人、うめきながら意識を手放した。
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