創作

□駆け引きサジェスト!
2ページ/5ページ




積雲とはクラスメイトだが、今日に限って顔を合わせていない。

いや、確実に避けられていた。

傷つくんだが、俺はどうすればいいのだ。


「絶対、今朝の話を気にしてるんだろうな……」

テンション高かったから、勢いのままに言ってしまったであろうこと。

積雲以外に友達がいないわけでもないのだが、
やはり気まずくて話せないのは気持ちがいいものでもない。


「何とか話せないかな……」

「何が?」

「!?」

まさか独り言を聞かれてしまうとは。

こういうときは、いつもならば積雲が目の前にいたりするのだが、今日は場合が場合だからか
目の前にいたのは朧月(おぼろづき)だった。

朧月日陰。

やけに仰々しい、月と日という対極の存在を名に含むクラスメイトの彼女は、
実は過去に世界征服を企んでいたお茶目さんである。

彼女は過去の自分を、黒歴史の塊と呼ぶ。

それはさておき、積雲のクラスでの唯一の友達である朧月が、俺に何の用だろうか。


「積雲と一緒じゃないのか?というか、独り言を聞くな」

「聞こえちゃったんだ、ごめんね。
 それに、野分のその言い方だとわたしと雨月(うづき)ちゃんが四六時中一緒にいるみたいで
 雨月ちゃんに失礼だから、言い直しを欲求するわ」

「…………ああ、分かった」

彼女はちょっと面倒くさい女子なのだ。

個人的には、まだこじらせた中二病が治りきっていないのだと思う。


「てっきり俺は、積雲は朧月といるものだと勝手に思っていたから一緒にいなくて驚いた。
 関係ないだろう朧月に聞いても仕方ないだろうが聞かずにはいられないから聞いてくれ、
 積雲が今どこにいるのか知らないか?」

「その言い方も何だか回りくどすぎて気にくわないけど……まあいっか。
 雨月ちゃんの居場所が知りたいのね」

「ああ」

我ながら、自分はよくこんな女子と普通に会話できるよなあと感心する。

そういえば鬼負(きふ)も鬼負で変な話し方だった気がするが。

ひょっとしてそこで謎に何かが鍛えられたのだろうか。


「雨月ちゃんなら、3組の岩見さんとご飯食べるから、って3組に行ったよ。
 わたしは「だったら私は先輩方と食べてくるよ!」と気を遣ったんだ」

「気を遣った、とか堂々と言うな。
 なら先輩たちと食べてこればいいじゃないか、何で教室に戻ってきたんだ?」

朧月は、過去に中二だったころに色々あって先輩に知り合いがいるのだ。

この先輩がなかなかいいキャラしていて、犬耳の付いたパーカー着てたり年中ブーツ履いていたりする。

この先輩たちに校則は適用されないのだろうか。


「あいにく先輩方はお取り込み中で……
 今日は楽しく便所飯しようかと思っていたんだけれど。

 野分がボッチで弁当も出さずに座ってるから、いじめられてるのかと思って
 気遣って声を掛けてみた。よかったら一緒に昼御飯、食べないか?」

「普通に誘えよ」

便所飯とか言うな。

俺がいじめられてるとか言うな。

いじめられてないから。


「悩みなら聞いてあげるからさ。食べようよ」

「……分かったよ」

腹が減ったのは俺も同じだしな。

俺の返事を聞く前に朧月が机をくっつけていたのは、見なかったことにして手を洗うために席を立った。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ