episode 2
□名前
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「…もう10年ぐらい前の話だ。ロケット団が、カントー1の名家、エヴァンス家を皆殺しにした事件があったの、知ってるだろ?」
「…?あぁ。」
「あれはな、当時ロケット団との交渉に乗らなかったエヴァンス家の当主を殺すために行われたんだ。」
「…、お前…、まさか。」
「俺は、そのエヴァンス家の生き残り。唯一のな。」
あの事件は、学校の教科書に載るレベルで有名なものだ。記録の上ではエヴァンス家の者は全滅、と聞いていたが…。
「だから、ロケット団と…、サカキと1人で戦ったのか。」
「なんだよ、知ってたのか。」
言いながらライトは笑ったが、その笑顔は冷たい。とても。
「トキワの森の…、イエローから聞いた。」
「あぁ…、あの麦藁ちゃんね。」
目線は、空へ。
「…仇討ち、か?」
「…さぁな。もう自分でもわからねぇよ。」
ハハ、と、嘲るようにライトはまた笑う。
「…帰るぞ。」
見かねたグリーンはライトの腕を引いたが、彼女は動かない。
「ずっと、考えてた。」
「?」
「俺は、図鑑所有者になる資格、ねぇ。」
パッと、グリーンの腕を振り払った。
「俺はもういいよ。お前らを危険な目に合わせたくない。お前らが傷ついてるのを見るのはもう散々だ。」
わざと、突き放すような言葉。
そうだ、これでいい。
そう言い聞かせているような言葉。
「ライト」
グイッ、と再度腕を強く引いた。少し体がよろめくほどに、強く。
「なんだよ…んっ」
そよぐ風に、響くリップ音。
そして休むまもなく、与えられたのはまぎれもなく人の温度。