Bouquet Of A Osmanthus
□Floor B6
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「行けそう?」
「ああ、たぶん。」
黒い装束に身を包んだ少女と、同じく黒を基調とした服を身に纏う青年。
「じゃあ、任務開始と行きますか。」
その言葉が合図とでもいうように、青年はハンマーへと姿を変えた。
「今回のターゲットは全部で6人。最初はフロアB6の住人、『アイザック・フォスター』。連続猟奇殺人鬼。包帯で身を包み、パーカーにフード。オッドアイが特徴…だって。うわ見てこの写真。見るからに怖そう。」
『阿保、さっさと行け。』
「はーい。」
死武専から渡された侵入経路を辿るため、目下にあったマンホールをあけて潜っていくと、かなり近く深くまで潜ったように思う。たどり着いた先の小さな天井裏のような空間に身を落とすと、足元の格子窓を破壊し、侵入。音を立てないように膝を曲げての着地。
「あ?」
「え?」
と、目の前に居たのは。
「ンだぁ、てめェ。」
「恨むぞ死神様…!」
赤いズボンに上向きの矢印が特徴のパーカー、包帯に包まれた顔面にオッドアイ…
アイザック・フォスター。
「思いっきりターゲットの部屋じゃん!!!!
ばか!!!!!」
『いいからとりあえず逃げろ!後ろに出口!』
「後ろってあんたあんなのに背中向けられるかい!」
見ればアイザック・フォスターは早くも鎌を振り上げている。
『くるぞ!』
「マジで勘弁して…!」
退路はない。上から振り下ろされる鎌に対しての逃げ道は1つ。
「ぐえ!」
幸い、しゃがんだ着地のおかげで飛ぶ準備はできていた。アイザック・フォスターの頭を台にして、上に飛ぶ。そのまま空中で体を捻り、背中に一撃いれてやろうとしたが、防がれた。
『おいおい、今の防ぐのかよ。こっち見てすらなかったぞ。』
「テメェ、女…俺を踏み台にするとはいい度胸じゃねえか!ぶっ殺してやる!」
そう言って再度大鎌を構え直すアイザック・フォスターの後ろに見える、ただ1つの退路。よく見ればそこには木が打ち付けられており、簡単には通れそうにない。
「…どしよ、モンド。」
『まだロクに作戦も練ってなかったからな。とりあえずこの部屋から出ることだけ考えよう。』
「出るって言ったって…」
この狭い部屋で、あの大鎌を振りまわされたら溜まったもんではない。だいたい、あの大鎌とハンマーでは間合いが違いすぎる。あの鎌を抜けるとなると、また懐に入らねばならない。
「さっきから何1人で喋ってんだテメェ。頭沸いてんのか?」
「…」
武器と職人の関係性は特異だ。魂の波長が合わなければ、武器化している者の声は聞こえない。向こうから見れば、確かに私は沸いているように見えるのかもしれない。
「えーっと、一応確認したいんだけど。貴方がアイザック・フォスターで間違いない?」
「あ?なんで俺の名前知ってんだよ。」
「…私は死武専から来た貴方を殺す人です。よろしく。」
「…ヒャハハハハハ!!!」
「?」
アイザック・フォスターは急に狂ったように両手を広げて笑い出した。
「いいぜ、俺を殺す、か。お前面白いじゃねェか!この部屋から出たいんだろ?今から3秒待ってやる。だからさァ、逃げてみろよ!!」
「え…」
「3」
『三日月!行くぞ!』
「2」
「んな無茶な!」
「1」
本当に攻撃をしてこなかったアイザック・フォスターの横を抜け、出口を塞いでいた木を割り、すり抜ける。
「いいねェ、なかなかいい動きをするじゃねぇか!」
予告通り、彼は3秒で追いかけてくるらしい。
三日月が道を抜けたすぐ後に彼も動き出した。
「!」
出口を出てすぐ、アイザック・フォスターの目の前に現れた木材。それをいとも簡単に切り捨てると、左右を見渡す。
「あー?あいつどこ行きやがった。」
木の飛んできた方向に人の気配はない。
「こっちの部屋か?…チッ、鍵かかってんな。開けちまうか。」
ガチャンと音を立てて、アイザック・フォスターは別の部屋に姿を消した。