Bouquet Of A Lily bell
□VS怪盗キッド U
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日本、雨季。
死神様に命じられて、魔道具(かもしれないもの)の宝石回収に訪れたはいいものの、大財閥のもとで大事に保管されていたそれを確認し、多少力づくでそれを回収してきたところだ。雨の中傘もささずに走り続ける。
「…はあ………。」
確かに忍の家系で身軽な方ではあるけれど。
顔とか隠すとそれっぽくて楽しくなっちゃうけれど。銃刀法の厳しい日本では武器化が禁じられているのもあって、相当しんどい。
さらに言えば。
「おや、休憩ですか、お嬢さん。」
日本の警察を怪我させないように振り切ってきたはいいものの、なぜか同じ日にこの宝石を狙っていた怪盗…今世間を騒がせている怪盗キッドに追い回されているのが尚しんどい。
「そりゃあんたは空路だから楽でいいでしょうよ。こちとら自分の足だよ?」
「そう仰る割には、あまり疲れているようには見えませんが。」
コツン、と革靴を鳴らして着地する白。
本当に、怪盗を名乗るにしては大胆不敵。
「誰だこいつ。」
「日本のコソ泥。あっちで言うルパンみたいなもん。」
武器化を禁じられていても、モンドを連れてきて正解だった。今回の警備はかなり力が入っていて、モンドの鷹目がなければキツかった。
「コソ泥とは聞き捨てならない。私は淡い月下を駆ける奇術師。怪盗です。」
わざと英語で喋ったのに、どうやら彼は語学も堪能らしい。相変わらずの気障っぷりに鳥肌が立ちそうになるが、なにやら前回とは雰囲気が違う。
「先程は顔がよく見えませんでしたが…男連れだったのですね。通りで前より犯行がスムーズな筈だ。」
「…そうね。今回はあんたより先に盗ってやろうと思って連れてきた。」
シルクハットに指をなぞらせ、態とらしく被り直す姿を見せつけてくる怪盗はゆっくりとこちらに近づいてくる。条件反射で身構えるモンドに、武器化だけはダメだからねと小声で伝えた。
「泥棒は盗むのが商売。それを先に盗られたとあっては怪盗の名がなくと言うもの。」
徐にスーツの中から取り出されたおかしな形の銃。もちろん銃口はこちらに向けられた。
「頂きますよ、その宝石。」
バシュンと打ち出されたものを紙一重で避けると、それは壁に突き刺さる。
「…トランプ。」
「えぇ。私は手品師でもありますから。」
間髪入れずに打ち出されるトランプをひらりひらりと交わす。なんだかモンドの方だけ枚数多いし角度も避けづらそうだけど気にしてられるほどでもない。