華嵐

□伝えられれば
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ボクのこの気持ちを
伝えられれば。




ボクのこの想いを
伝えられれば。




あの人は、
いつものように
マサラを出て行った。




なんの変哲もない、
いつもの日常だった、
筈だった。



なのに
なのにどうして、




あの人は帰ってこないのだろうか。




あの人は
最強だった筈だ。




でもだからこそ
負ける事は許されなかったのかもしれない。




あの人の家の中の家具には、
長い間誰も入らなかった証拠の様に埃が溜まっていた。




手紙に書かれていた引き出しを開けると、



そこには
あの人の手持ちが一匹残らずしまわれていた。





本当に、
全て真実なのだ。




悪い夢なら今すぐ覚めてよ。





ボクは嫌なんだ。
認められないんだ。




あの人の手持ちを全て持ち、
ボクはもう一度
家の中を見渡した。





埃を被った棚に飾られているのは、



10人が写る写真。



誰もが笑っていた。
幸せだった。


でも、

もう届かない。




ツタエラレナイ。






「…さようなら、」





ボクは、
あの人の最後の手紙の指示に従い、


家に火をつけた。


炎はあっという間に
家を包み、全てを消して行く。


「…、」


思い出は、
今すぐここで捨てるから。


ボクは、
自分の麦わら帽子も炎の中へと投げ入れた。





「レッドさん…、大好きでした。」





彼には伝えられなかった
ボクの本当の想い。




全てここで
振り払うから。



ボクは、
そのまま炎を背にして
全てを置いて行った。



帰ってこない彼の傍らに




少しでも置けるのなら。
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