華嵐
□愛する彼女へ
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俺と、アイツの出会ったあの日から、
一体どれほどの月日がたったのだろうか。
頑なに脱ごうとしなかった麦藁帽子。
その下に隠れていたアイツの秘密。
気づかなかった俺って鈍感★
…いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
…いつの間にか、俺と俺の大切な人のポケモンの間に子供が出来てて、
それを大事な後輩が育ててて。
後輩といえば、いつの間にか俺の大切な人も含めて13人も出来てた。
トキワジムのジムリーダーにはいまだになってないけど。
というか、幼馴染がいまだに経営してるけど。
でも負ける気はない。
俺があそこのジムリーダーにならない限りは、
あいつもあそこを降りないだろう。
俺の中にある、大事な約束。
守らなければならない約束。
彼女との最初のつながり。
俺の原点。
「おーい、イエロー、いるかー?」
森の中にひっそりとある俺の彼女の家。
今日は、あいつの誕生日だ。
「…また寝てやがるな…?」
返事が聞こえないときは、たいてい奥で寝ているのだ。
なるべく物音を立てないように俺は進んでいく。
「…。やっぱり。」
晴れ渡る野原。
ゆれる草木をベッドにして、あいつは静かに寝息を立てる。
「やれやれ…あ、ピカ、ちょっとあっち行ってろ。」
俺は渋るピカチュウを無理矢理トキワの森に向かわせ、
しばらく様子を見てからゆっくりあいつの隣に寝転がった。
暖かい日差し。
心地よい風。
昼寝には丁度良すぎる好条件だった。
こいつは元から寝るのが好きだからな…。
心の中で思って、静かに笑う。
「あ、そうだプレゼント…。」
この日のために買った、彼女へのプレゼント。
女心のわからない俺が、必死になって選んだのは
ネックレスだった。
気に入るかどうかは別として、
とりえあえず物は必要だとブルーに言われて、渋々。
「イエロー、誕生日プレゼントだぞー」
ボソッと言ってみるが、反応はない。
相変わらず、規則正しい吐息が聞こえるだけだ。
「…。」
俺はしばらく考えて、
「しょうがね…プレゼントだけ置いていくか。」
起こすのもアレだし。
と心のなかで突っ込みも入れ。
イエローの横に、こっそりと高値のネックレスを置いた。
箱包装+紙袋入りだし大丈夫だろう、と確認した。
(…このまま帰るのは癪だ…)
プレゼントを置いたまま、俺は上からイエローの寝顔を拝見する。
しゃがんで顔を覗き込んでみれば、本当に幸せそうな顔してる。
あ、やべ、顔近ぇ。
一気に顔が熱くなった気がした。
(…寝てるイエローが悪い。)
そのまま、俺は甘いキスを彼女の唇に落とした。
一瞬風に混ざるリップ音。
「ッ…///」
その瞬間、イエローが少しだけ身を震わせた。
「…イエロー、お前狸寝入りしてたな…?」
「…」
返事はしないイエローだが、確実に顔が赤く染まっている。
「…ったく…///」
まんまと彼女の狸寝入りにだまされたが、
別に損をしたわけではない。
俺は少し顔を赤らめて、あらためて彼女の横に寝転がった。
「誕生日おめでとう、イエロー。」
風のそよぐ、二人の世界。