華嵐
□ボクとあたし
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「ルビー!いると!?」
ダァンッ!
と物凄い勢いでボクの部屋の窓を開けたのは、声さえ聞けば見なくても分かる。サファイアだ。
「amaging…、サファイアがこんな早くに起きていて、更にはこんな朝方からボクの部屋に来るなんて。今日は厄日か何かかい?」
「…どーゆう意味ったい。」
からかうように皮肉を言ってれば、ボクが思った通り、サファイアは少し頬を膨らませていじける。
…ふふ、相変わらず可愛いなあ…
そんな事を思いながら時計を見る。時刻は明朝4時。
サファイアはこんな時間に何をしに来たのだろう。
ちなみにボクはコンテストの衣装を昨日の夜から縫い続けている。つまり、徹夜。だから、サファイアが来るまで世界に朝日が上り始めていたことにも気付かなかった。
ボクは縫う手を止めて、手元にある作業用の小さなライトを消した。代わりにサファイアが入ってきた窓と、その近くにある窓のカーテンを開ける。
「…で、どうしたの、サファイア。」
言いながら、サファイアの方に振り返り、
そして、気づいた。
「ッ、サファイア!どうしたんだい!?顔も服も泥だらけじゃないか!」
今まで部屋の中が暗かったせいで気付かなかったが、サファイアはあちこち泥だらけだった。更に、両の手には無数の小さな切り傷も見える。
「と、とにかくお風呂場で泥を落として。その後、すぐに手の手当てをしよう。」
ボクは少し慌てて、救急箱を取りに行こうとサファイアに背を向けた。
と、その時だ。
「…待って、ルビー。」
あまり泥と出血の少ない方の手で、サファイアはルビーの手首を掴んだ。
「あたし、そんな事ば言われるためにここに来たんじゃなか。あんたに、渡したいものがあるけん。」
あまりに真剣な声だった。
ボクは思わずサファイアの顔色を伺う。
「…どうしたの?」
そして、優しく問いかけた
「ほんとは、もっと早くに来るつもりだったんやけど、間に合わんかった。すまんち。」
「…?サファイア?」
"急に謝られても、困るんだけど。"
そう続けようとしたその時、サファイアがボクの手首を掴んでいない方の手で、モンスターボールを素早く掴む。
「ッ!」
ボクは思わず驚いて目を瞑った。
ボム、という中からポケモンが出て来る時の特有の音。
「…、…?」
けれど、いつまでたっても何も起こらない。ボクはゆっくり目を開けた。
「!」
すると、目に見えたのは、
「…あたしはアンタみたいになんかを作ったりするのは得意じゃなか…、でも、だからって何かを買って渡すのも、いつもアンタは手作りの物をくれたから気が引けて…。」
彼女のプラスルと、プラスルが持つ、大きな、大きな花束。
「やから、あたしがフィールドワーク中に見つけた、綺麗な花を、
いっぱいいっぱい摘んで来たったい。」
「え…」
「ずっと何にしようか考えとったら、何時の間にか日も暮れてしまって、夜に手探りで探したんよ。泥だらけですまんち。」
ハハ、とサファイアは少し申し訳なさそうに言うと、更に続けた。
「誕生日、おめでとうったい、ルビー。」
「!」
ボクは慌ててカレンダーを見た。
今日は7月2日。
自分でもすっかり忘れていた。
「サファイア…まさか、花を選んでて手を切ったのかい?」
「く、暗くてよく見えんかったけん、ちょっと手探りで探したら何時の間にか切れてしまってたとよ。」
「…もう…」
ボクは小さく笑いながら彼女のプラスルからそっと花束を受け取る。
「本当は12時ぴったりに来るつもりだったんよ?い、1番に、言いたかったけん、」
「サファイア」
ボクは耐えられなくなって彼女の言葉を遮って紡いだ。
「…ありがとう。本当に嬉しいよ。花束ももちろん嬉しいけど、何より、キミが1番に言いにきてくれた事が。」
「ルビー…」
「…でも、キミは女の子なんだから、怪我には気をつけてほしいな。」
花束を持ってない方の手で、ボクは傷だらけのサファイアの手を包む。
「ボクは、何よりもキミが大事なんだよ?」
「!///」
「お、顔が真っ赤なキミも可愛いね!ほんと、cuteだよ、サファイア。」
「ルビー!///」
…ありがとう、サファイア。
ボクは、
この花を決して枯らさない。