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□モモンのみ
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「ミカヅキさん、ごめんください!ジブンです!」
「…あぁ、ウォロさん。いらっしゃい。」
スコルピに刺されて死んだと思った数日後、私はギンガ団本部の医務室で目を覚ました。
話によると"海岸ベースの側"で倒れていたらしく、発見した博士が慌てて連れ帰ってきたそうだ。
しかし、医務室に搬送された頃にはすっかり体内の毒は解毒され、傷口も処置されていたことから、後は体力の回復のみと判断され特にその後処置を施されることなく丸2日寝静まっていたとのことだ。
刺された傷口自体は痛むものの、いつまでも本部に居座るのも嫌だったので早々に家に帰ってきたところで、ちょうどウォロさんが訪ねてきていた。
「すみません、キングリーフとゲンキノツボミを卸していただけないですか。空から落ちてきた人から大量に注文が入りまして。」
「良いですけど、状態がいいかどうか。数日店を空けていたもので。」
「え?何かあったんですか?」
「………。」
相変わらずコロコロと表情の変わる人だ。
いつもの貼り付けたような笑顔とは一変、呆れたような顔をしたかと思えば今度は私を心配しているような顔をしている。
「先日、スコルピに刺されて死にかけまして。」
「ええ?!よくご無事でしたねえ?」
「……そういえばウォロさん、手持ちにガブリアスっています?」
「はい?ジブンはトゲピーだけですよ。まあ先日、トゲチックに進化しましたけどね!見ますか?」
「結構。」
…やっぱりあれは夢だったのか。だとしたら、私はどうやってあの状態で海岸ベースまで行ったのだろう。誰かが助けてくれたような…、よく思い出せない。
「よかった。そんなに状態は悪くない。ユキメノコ、奥のキングリーフ取ってき……あ。」
「どうかされました?」
「…いえ、ちょっと待っててください。」
いつもの癖でユキメノコを呼んでしまったけど、彼女はあの時逃してしまったのだった。傷は塞がりはしたがまだ痛む右足をびっこ引きながら、奥の倉庫へと向かう。
「ユキメノコはどうされたんです?」
「…待っててって言ったでしょう。」
奥に引っ込んだ私を追うようにひょこっと顔を出すウォロさんは、わざとらしく店内をきょろきょろと見渡した。
「逃したんです。道連れにするのも可哀想と思って。今頃故郷の凍土に帰ってるかもしれないですね。」
「ええっ!相棒を失って寂しくないですか?」
「……1籠で足ります?」
「あ、えっとですね〜、できれば3籠分。」
「店の在庫根こそぎ持って行く気ですか?」
「まあそう仰らず!お礼は弾みますよ!」
心配などまるでしていないように、話を振ればユキメノコの話題は消えて無くなる。
「請求書出すのが楽しみです。」
「ハハ、そこはまあ…お手柔らかに…。」
私が歩いているのを見ていられなかったのか、ずかずかと奥まで入ってきたウォロさんは、ひょいとまるで雲でも掴むように軽々と籠を纏めて持ち上げた。
「ではジブンはこれで!またお願いしまーす!」
「どうもご贔屓に。」
嵐のような人だと思う。
外でもどこからともなく現れて、声をかけては去って行く。どうやら神話や遺跡などに興味があるようだが、それ以外のことはあまり分かっていない。いつも胡散臭い笑みを浮かべて、周りをよく観察している。
「…ん?」
ふと、机の上にメモ書きと、一つのボールが置いてあることに気がついた。
"匿名の方からのご依頼で、貴女にお届け物です。良い相棒を持ちましたね。 ウォロ"
先程わざわざ奥まで入ってきたのは机にこれを置くためか、とボールに目を落とすと、見慣れた傷がついている。
「…まさか。」
ぽん、と投げれば中からはあの日逃したユキメノコ。あの時、助けを呼びに行ってくれたのか。…では、記憶に朧げに残るガブリアスは、助けてくれた人の相棒、だろうか。
「誰だったのかしら…。」
意識の最後に綺麗な金髪があったような気がするのだが、ウォロさんの手持ちにガブリアスはいない。考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。