華嵐
□凍った笑顔
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「グリーン、お茶いれてきたわよ。」
カタン、と俺の書類に埋もれた机に暖かいコーヒーを置くのは、ブルーだ。
「あぁ…、すまない。」
外は土砂降りの雨が続いているせいで、地面はぐしゃぐしゃだ。
だが、今はその方が落ち着いた。
…一ヶ月前の事だ。
ブルーは19の誕生日を迎えた。
「グリーン、買い物付き合ってよ♡」
「…お前は…一体どこから入ってきたんだ…?」
溜まった書類の整理に追われ、もう2日程寝ていない。
鍵は万全に閉めていたはずだが、相変わらず神出鬼没な女だ。
「…見れば分かるだろう。俺は忙しい。」
「んもう!釣れないわね。」
だが、一向に帰る気配のないブルーにグリーンが折れた。
「…さっさと済ませよ。」
「ホホ、ありがと♡」
いつものやりとりだった。
だから、だから。
響くサイレン。
飛び散る赤いもの。
出来た人盛り。
「グ、リーン…?どこ…?」
俺はここにいる。
いつだって、お前の目の前に。
「ブルー…。」
声が掠れた。
頬が濡れていて、それが涙だと理解するのに数秒かかった。
「良かった…そこに、いるのね…?」
ブルーの目は明らかに焦点が合っていない。俺など見えていないだろう。
「あぁ…。」
だから、
ぎゅっと、彼女の体を抱きしめた。
冷たくなる体。
もうじき夏だというのに。
「グリーン、愛してる…」
彼女の最後の一言だった。
「…。」
俺も愛しているさ。お前を。
伝わらない気持ちの代わりに、
最後のキスを落とした。
それから二週間後、
ブルーはひょっこり帰ってきた。
最初は目玉が四つになるんじゃないかと思うくらい驚いたが、すぐにわかった。
驚くような白い肌。
なびく栗色の髪。
だが、いつもと違うのは。
ブルーには似合わない茶目っ気のない瞳と、
笑わなくなった顔。
「グリーン?」
見た目も
声も
仕草も
全てがブルーだった。
全てが同じだった。
だがただ一つ、
お前が笑わないだけで
俺はこんなにも
心がぐちゃぐちゃになる。
ブルー。
愛してた。