神と化け物と神童と。
□☆水☆
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それから暫く経ったある日の事。
僕は“宴”の一件のせいで、更に風邪が悪化していた。
最初は鼻水や喉がガラガラしていただけだったのだが、今はもう咳やら微熱やらで訳が分からない事になってしまっている。
だがやはり食事は取らないと治る物も治らないので、今さっき朝食を取りに食堂へ向かったのだが…。
…この前の“龍”の時に開かずの間から出て来た事で有名になってしまった僕は、食堂に入ると同時に何人もの生徒に詰め寄られた。
なので僕はその人達を上手くかわし一目散にその場から逃げ出した。
…だって皆の質問に答えられる気がしなかったから。
どうやって龍を倒したの?とか。
あの姿って一体誰なの?とか。
全部、僕さえも知らない情報。
それを聞いて何か腹が立った。
何で皆は知ってるのに僕自身は何も知らないんだろうって。
大体…何で僕は変わりたいなんて思ったんだ?
“変”わるんじゃなくて“強”くなるとか“勝”つとかでも良かったじゃないか。…変を選んだ時の僕の心境が分からない。
何故僕はこれを選んだんだ。
…うーん……。
暫く考えを巡らせてみたが、答えは出てこない。というか頭がボーッとしてそれどころじゃなかった。
琥珀「…全然頭回んない。」
琥珀はそう呟くと、きゅるるるると鳴るお腹を押さえた。
琥珀「……お腹も空いたし……売店にでも行くか。」
うん、そうだ。それがいい。
こんな時は何か甘い物を食べれば…後ポカリ。それ買って部屋に戻って…それで薬を飲もう。風邪薬ね。
そうすればきっと楽になる筈。
琥珀はそう考えると直ぐに売店へ向かって歩き出した。
よし。早く買って部屋に戻ろう。
そんでもって今日は一日安静だ。
…うん。
我ながら良いスケジュール。
琥珀はボンヤリとする意識の中、満足そうに微笑んだ。
=売店=
売店に着くと、琥珀は甘い物を探す為暫く商品棚を見渡していた。
琥珀「…」
ーーそうだな…やっぱチョコレートとかがいいのかな?でも糖分さえあればいいし…僕的にはこのお菓子とかも……あ、これもいいな。
暫く悩みこむ。
ーーん…よし。これにしよう。
これなら糖分取れるし、僕の好物でもあるし。
琥珀が手に取ったのはポッキーの箱だった。
琥珀「これとポカリ下さい。」
そしてそれを売店のお姉さんに渡すと琥珀は財布をポケットから出した。「合計320円です」と言われ、琥珀は小銭を取り出す。
…そこで気付いた。
琥珀「…あれ?」
僅かにお金が足りないという事に。
300円を手にしながら財布をひっくり返してみる。…が、1円玉さえも出てこなかった。
それを見て琥珀は頭を抱える。
琥珀「あちゃ…お札持ってくれば良かった。…うわぁ…20円足りないとか…まじかよ。」
思わず素で呟いた。
ーーまぁ…仕方ないか。…うん。
とりあえず一旦部屋に戻って金庫を開けてこよう。
ポカリを返そうと口を開きかけた…その時。
チャリッ。
目の前に20円が出された。
琥珀「…え?」
訳が分からず、ゆっくり振り返る。
…そこには眩しい程の笑みを浮かべた日向の姿があった。
そんな日向を見て、琥珀は何故か身の毛のよだつモノを感じた。
ーーえ、何。誰こいつ。
こんな日向くん知らないよ?僕。
琥珀が思わず黙り込んでいると、日向は素晴らしい程の笑顔を此方に向けたまま言った。
日向「これで足りるんだろ?」
それに遠慮がちに返す。
琥珀「…そう…ですけど…」
日向「じゃあ遠慮すんなって。……俺達友達じゃん!」
ニコリと笑う日向。
それに琥珀は胸を打たれた。
ーーあれっ…え…?!
もしかして…日向くんって凄い良い人なの?
今まで仏頂面や悪人面しか見せていなかった男の突然の爽やかな笑顔。
それを見て琥珀は戸惑った。
どれが本当の彼なのか…。
いやどれも彼なのか。
琥珀が悩んでいると、突然頬に冷たいモノが触れた。
琥珀「っ…!?」
驚いて日向の方を見ると、日向はニコリと微笑んだままポカリを手にしていた。…恐らくそのポカリを琥珀の頬に押し付けたのだろう。
日向「ほら。」
手渡されるポッキーとポカリ。
琥珀はそれを受け取ると、すこし嬉しそうな声で言った。
琥珀「…ありがとうございます。」
日向「いいっていいって!」
日向(その代わり体で返してもらうがな…覚悟しとけよ琥珀…!)
…勿論琥珀は日向がよからぬ事を企んでいる事など知る由もなかった。