神と化け物と神童と。

□☆損傷☆
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…訳が分からない。
それが僕が目覚めた時に感じた率直な感想であった。

琥珀「っ…?」
気が付いた時には…もう遅かった。
僕は既に“4組”に居て。

僕の周りに4組の生徒と朝長が立っているのを見ると…どうやら穏やかな状況ではないらしい。
酷い頭痛と吐き気がした。
ズキンッ。
頭に襲いかかる鋭い痛みに思わず手を伸ばしかける。
だがそれは叶わなかった。
琥珀「…!」
ギチリと手首に食い込む縄の感触。
…僕は“拘束されていた”のだ。

それに気付いた僕の頭は先程よりも混乱した。
ーー何なんだ?この状況は…!
確か僕は…蝕が終わった後、直ぐに4組に向かったんだよな…?
…うん、そうだよ。僕は長い廊下を歩いて4組まで向かったんだ。
…でも何でだ?
途中から記憶が無い。
一体僕に何が起こった…いや起こっているというんだ?

すると目の前に立っていた朝長が僕が起きた事に気付いたらしい。
嬉々とした表情で僕を見下ろした。
朝長「おはよう。…気分はどう?」
琥珀「……最悪ですね。」
朝長「はは、だろうね。」
笑う朝長。
一体何がおかしいというのか。
そんな朝長に少し苛立ったが…僕はそれよりも先程から頻りに痛む頭の方が気になった。
ーーもしかして…僕は4組に来る途中にこの中の誰かに襲われて…?
…それなら頭が痛い事も記憶が途中から無いのも合点がいく。

ズキンッ。
再び疼いた頭に琥珀は小さく呻き声をあげた。
琥珀「っ…」
朝長「あぁ…痛む?ごめんね。君が強いって聞いたもんだから…つい強めに殴っちゃったんだ。」
あははと笑う朝長。
そんな朝長を僕はキッと睨んだ。
…だが。

ピラッ。

突然目の前に出された紙切れによって遮られてしまった。
朝長「まぁ話を聞いてよ。その為に君を呼んだんだから。」
琥珀「…手短かにお願いします。」
その言葉を聞くと朝長は紙切れを裏返した。
それはどうやら写真だったようだ。紙切れに二人の人物が写っている。楢鹿の制服に身を包んだ二人を見て琥珀はハッとしたような表情を見せた。
ーーこれ…!!?
…その人物に見覚えがあった為だ。

琥珀「何ですか…コレ…」
精一杯声を出すが、何とも言えない“恐怖”に思わず声が震えた。
そんな僕に彼は淡々と言う。
朝長「日向 三十郎くんと糾未 了くんだよ。…この二人って…琥珀くんと仲が良かったよね?」
琥珀「!」
嫌な予感がした。
心臓の音が五月蝿くなる。
冷や汗が首を伝うのが分かった。

彼はニコリと笑みを浮かべ冷酷にも言い放つ。
朝長「この二人…殺さないでほしい?」
やはり…脅された。
そうなるとは思っていたが、まさかココまでハッキリと言われるとは。

琥珀が言葉を失っていると朝長は笑みを崩さないまま言った。
朝長「だったら4組においでよ。君が協力してくれるとこっちも助かるんだ。色々とね。」
琥珀「っ…」
朝長「…彼等を見殺しにするか、俺達の仲間になって彼等を助けるか。選択肢はこの二つしかないよ?」

…残酷な、選択肢だった。

ーーそんなの…答えが決まってるじゃないかッ…。

そう。朝長は“琥珀の答え”など求めてはいないのだ。彼が求めているのは琥珀の絶対的な“忠誠心”と“能力”だけだ。

朝長「さぁ、どっちにする?言っとくけど…俺そんなに気長くないよ。」
朝長の笑みがフッと消えた。
冷たい瞳が琥珀を睨み付ける。
琥珀「…っ…分かりました。…あなた方につきましょう。」
琥珀が押し殺した声で答えると、朝長は口角を釣り上げて笑った。
朝長「…そう。」
じゃあ彼の縄を解いてあげて。
彼が言うと、ある一人の女子生徒が琥珀の両手を縛る縄を解いた。
しゅるっ。

琥珀「…」
解放された両手。
縄の痕が残った手首を摩ると、琥珀は次に自らの頭を抑えた。
琥珀「っ…」
ヌルッと生温い感触がする。
赤黒い血が琥珀の額に流れてきていたのだ。何とも気持ちの悪い色だ。
ーーうわ…最悪…。
ぐしぐしと乱暴にその血を拭う。

スッ…。
すると朝長の手が布越しに琥珀の左目に触れた。
琥珀「!!」
ツッ…。
琥珀「な…にを…?」
朝長「…」
形を確かめるようになぞるその指は、琥珀にとって恐怖の対象としか取れなかった。

ーーまさかッ…こいつ…!

一瞬脳裏に嫌な予感が浮かぶ。
…それが数秒後に的中する事になるなど…琥珀は考えたくも無かった。

ツ…と朝長の手が瞳孔と重なる辺りで止まる。朝長の指が少し強く押し付けられたかと思うと…目蓋を強制的に開けさせられた。
琥珀「ッ…!!」
身体が強張る。
そんな琥珀の状態に気付くと、朝長はニコリと爽やかに笑った。
朝長「…安心して?琥珀くんが俺達を裏切らないように……特別におまじないをしてあげるだけだから。」
彼がそう言った、次の瞬間。


ズッ!!

琥珀「ーーーッ!!?」

左目に激痛が走った。


琥珀「あッぅ…」
小さく呻き左目を抑えて床に崩れこむ。そんな彼女を見て教室内がざわめいた。
「ひっ…!?」
悲鳴をあげる者も何人か居たが…殆どが口元を抑えるか、信じられないとでもいうような顔で僕と朝長を交互に見るだけだった。
僕はズキズキと痛む左目跡を抑えながら朝長を見上げる。だが朝長はそんな僕など気にも止めず、唯左手で眼球をいじっていた。
…それは正しくたった今無くなった僕の左目だった。

琥珀「っ…!!」
ギリっと朝長を睨む。朝長は琥珀を見て楽しそうに笑った。
朝長「痛い?…痛いよね。」
ガシッと乱暴に琥珀の前髪を掴み、掻き寄せる。
琥珀「ぐっ…!」
朝長は痛みで顔を歪める琥珀を見て満足気に笑った。
朝長「そんな痛み…もう味わいたくないだろ?じゃあ俺を敵に回さない事だね。…あ、でも俺を裏切ったら君の心臓を“盗”るんだから…痛くはないか。」
ククと喉を鳴らしながら笑う朝長。
ーーこいつ…!!
精一杯に朝長を睨みつけてやると、彼は冷たい眼差しを向けたまま僕に言った。
朝長「まさか…左目盗られるなんて思ってなかった?」
琥珀「っ当たり前でしょう…!」
朝長「……ま、俺も最初はそのまま帰すつもりだったんだけどね。」
そう言いながら空いた方の手で琥珀の左目を握り込む。

グチュッ!!

赤い血を噴き出しながら弾け飛んだそれを見て…琥珀は目を見開いた。

ーーっ…!!!

朝長「琥珀くんが怖がるの見てたらついイジメたくなっちゃって。」
爽やかに笑む朝長。
手が無意識に震えるのが分かった。

ーー僕のッ…左目が…!!

放心する琥珀。
そんな琥珀の前髪を離すと、朝長は彼女を強制的に立ち上がらせた。
朝長「もう盗らないから安心して?…今日はもう部屋に戻って休んでいいよ。」
言葉も発せなくなった琥珀に朝長は妖艶に微笑みながら言った。

朝長「またね、琥珀くん。」
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