神と化け物と神童と。

□☆蘇生☆
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楢鹿高校のとある男子寮の一室。
もう11時も回り、辺りが静まり返る中で…その部屋の中だけがヤケに騒がしかった。

美濃「マジで!!?…本物?」
袴田「?誰、あいつら…」
クラスも疎らな彼等が騒ぐ理由は…突然の来訪者である“二人の男”にあった。
その来訪者とは…。

アイラ「ウソ…六道くん…!!?」

死んだ筈の黄葉(大)と琥珀(大)である。

アイラ「良かったぁ…また会えて良かったぁ…」
アイラがあまりの感激に思わずガクリとその場に泣き崩れると、クリシュナがそれを支えた。

クリシュナ「ただいま。」
アイラちゃん、と優しく微笑むクリシュナ。そんな彼にアイラは身を預けた。
アイラ「…うんっ……」
…そんな二人を見て、全員が安心したような穏やかな表情に変わっていっていたのだが…。
アイラが急に青ざめたのを見て、日向が悟ったように言った。
日向「……心音が聞こえねぇんだな?」


暫くして大分アイラも落ち着いてくると日向は全員を床に座らせた。
そしてゆっくりと口を開く。
日向「一応、六道(大)と琥珀(大)が戻って来たはいいが…」
恐らく今後の事について話し合うつもりなのだろう。…だが、僕はそれよりも琥珀様の心臓が奪われた理由の方が気になった。
きっとクリシュナも同じ事を思っている筈だ。何故心臓を奪われたのが琥珀様と黄葉くんだったのかと。

クリシュナ「ねぇ…俺、何で心臓がなくなったの?」
不思議そうに尋ねたクリシュナを見て、僕も日向くんに尋ねる。
カルキ「朝長くんに心臓を奪われたのは知っているのですが…何故“盗”られたのでしょうか?」
…朝長という男は、琥珀様と黄葉くんの心臓を奪った張本人である憎き人間だ。
そんな奴が一体何を考えて琥珀様の命を盗ったのか。
それが非常に気になった。
だから日向くんに尋ねた。
直ぐにでも朝長を殺しに行きたい衝動を抑えて、平静を装った状態で。

でも日向くんの放った次の一言で…僕の“殺意”は最大を振り切る事になる。


日向「なんつか…奴の意向に背いたからだな。」

ピクリとクリシュナとカルキが微かに反応を見せた。…考えている事は二人共同じなのであろう。
クリシュナ「…そんな事で?」
冷たい口調で問う。
それに日向は頷きながら答えた。
日向「そんな事でだ。」
カルキ「……そいつは今何処に?」
日向「奴は多分向かいの別塔に…って、おい!六道ッ!?それに琥珀までっ…おい待て!!」
日向の話している途中に立ち上がった二人は、日向の呼び止めも聞かずに向かいの別塔へと向かって歩き出した。
“朝長から心臓を奪還する為に”。


そんな、部屋から出て行った二人を日向とアイラが追いかける。
日向「待て!!待てってば!!」
校庭に出た所でやっと、急いで追ってきた日向がクリシュナの肩を掴み、アイラがカルキの腕を抱きとめる事が出来た。…それでも尚、歩き続けようとする二人に日向が叫ぶ。
日向「おいっ待てよ!!どうするつもりだ!?」
クリシュナ「心臓を取り返さないと。」
日向「取り返すったって、お前…」
クリシュナ「あんまり時間がない。」
眉間に眉を寄せるクリシュナ。
クリシュナ「黄葉くんの存在がね…消えかかってるんだ。」
そんな彼を見て、カルキもまた複雑そうな表情を見せた。
カルキ「…琥珀様も同じですよ。…兎も角一刻も早く命を繋げないといけないんです。」
アイラ「でもっ…」
アイラが言いかけた時。
カルキが“あるモノ”を見つけた。
カルキ「…!?」
目を見開くカルキを見て、それ以外の三人もカルキの見つめる先にあるモノを確認する。
…そして日向が声を上げた。
日向「…なんだこりゃ…?」

ドクドクと小さく脈打つ肉の塊。
地面の上に落ちていた二つのソレはあまりにもグロテスクで、日常で普通に目にするとは思えないモノ。
…潰れてはいたが、それは確かに動物が持つ“臓器”そのものだった。
日向「…これ、心臓か!?」
クリシュナ「!!」
アイラ「う…動いてる…っ…」
戸惑いの表情を隠せないといった雰囲気の日向とアイラに、クリシュナが叫ぶ。
クリシュナ「ちょっとどいて!!」
潰された心臓の元にクリシュナが駆け寄ると、同じようにしてカルキも駆け寄った。
カルキ「…この少し小さい方が琥珀様の心臓だね。」
クリシュナ「じゃあ…こっちが黄葉くんの心臓か…。」
それぞれが心臓を手にとって、如何にか元の形に戻そうと捏ねてみる。
…だが元に戻る筈もなかった。
カルキ「…ありゃ?」
クリシュナ「ねぇっ元に戻らないよ!」
不思議そうに心臓を手に持つ二人。
そんな二人を見て、日向とアイラは少し呆れたような表情を見せた。
アイラ「日向くん…六道くんと琥珀って……なんだろう…?」
日向「…俺に聞くなよ…」
二人が呆れている一方でクリシュナは一人悩み混んでいた。
…潰れた心臓が本来の臓器としての役割を果たすとも思えない。
だから彼は悩んでいたのだ。
カルキ「…」
だが不思議な事に、同じく心臓を潰されていたカルキは少しも悩んでいる素振りを見せなかった。…寧ろ彼が浮かべているのは“安堵の表情”。
カルキ「…うん。まぁ大丈夫か。蘇生には差し支えないとは思うし。」
…そう。
カルキには“心臓の形”など、どうでも良かった。…彼にはその“土台”があるだけで十分だったのだ。

勿論その事を知らないクリシュナ達はカルキの言葉に疑問を抱いた。
…というかカルキの言葉の意味が理解出来なかった。
日向「…どういう事だ?」
日向が怪訝そうに聞く。
カルキはそんな日向を見ると、溜息をついて更に問い返した。
カルキ「…琥珀様の身体の再生能力が人並外れてるって事は…琥珀様と、最低でも過去で一年過ごした君達なら知ってますよね?」
三人が静かに頷く。
するとカルキはニコリと笑った。
カルキ「だから潰れたコレでも…」
そう言って右手を己の左胸に突き刺す。ズブリと音がし、右手が掴んでいた心臓と共にカルキの胎内へと消えていくのを見ると三人が目を見開いた。
しかしカルキはそれを気にも止めず話を続けた。
カルキ「…琥珀様の身体に入ってしまえば元の心臓に復元されるんですよ。だからさっき蘇生には差し支えないって言ったんです。」
ズッ!
カルキが勢い良く手を引き抜く。
その手にはもう潰れた心臓は握られていなかった。
カルキ「…まぁでも再生時間はかなりかかっちゃうみたいなので…暫くは琥珀様と変われないんですけどね。」
アイラ「そうなんだ…」
カルキ「えぇ。」
何てったって心臓の損傷だからね。
多分回復するのにかかる時間は…早くとも8時間ぐらいだろうな。
…琥珀様も大変そうだ。

そんな事を考えながら、右手にベットリと染み付いた血液を眺める。
…その時。

ゾクゾクゾクッ。

カルキ「ッ…!!」
背筋が異様なまでに震えた。

ガクッ!
思わずその場に蹲ると、三人が驚いたような顔をして駆け寄ってきた。
日向「おいっ…琥珀!?」
三人がそれぞれ、僕に何やら心配の言葉をかけてくれているようだったが…今の僕にはそれが唯のノイズとしてしか受け取れなかった。
カルキ「…」
……おいおいおい。マジかよ。
琥珀様の血を見て“興奮”するとか…流石にヤバすぎるだろ。
…自覚してなかったけど…僕って、やっぱりヤンデレだったのか。
血を見て興奮するんだから…まぁ…そういう事なんだろうけど。

カルキ「っ…」
カルキは震える己の体を、三人に悟られる前に強く抱き締めた。

…あぁ、やばい。超絶ヤバイぞ。
琥珀様の事が“好きすぎる”。
愛しすぎておかしくなりそう。
あの声が…あの表情が。
僕の心を埋め尽くしている。
忘れられない。
琥珀様の事が頭から離れない。

好きだ。好きだ好きだ好きだ。

愛しています、琥珀様。
殺してしまいたいぐらいに。
あなたを僕の中に取り込んでしまいたいぐらいに…愛しています。
刻んで、グチャグチャに溶かして。
あなたを飲み込んで、僕の体の一部にしたい。

次々と溢れ出す狂愛の感情に、自分自身でさえも吐き気を覚えた。
カルキ「…っは…ヤバ……」
自嘲気味に笑うカルキ。
三人はそんなカルキを只々見守る事しか出来なかった。

こんな感情…おかしすぎる。
イかれてる。尋常じゃない。
そんな事分かってる。
…でも。
駄目なんだ。抑えられないんだ。
あなたの事を考えると…次々とこの感情が浮かび上がってくる。

本当に気味の悪い…。
気持ち悪い醜い感情だ。
好きだから殺したい、なんて。
それじゃ駄目だろ。
確かに最後は自分の手で…って思う気持ちも分かる。
でも…生きてなきゃ意味がない。
愛してくれなきゃ意味がない。

そこらへんの考えがある所からして一応まだ正常な精神は失くなってはいないらしい。
少し…安心した。

カルキ「…ふぅ。」
フラリとカルキが立ち上がると、それをアイラが軽く支えた。
アイラ「…大丈夫?」
カルキ「…すみません。少し目眩がしたもので。…もう大丈夫です。」
ニコリと笑うカルキ。
日向とアイラの二人は、それを見て安心したようだ。ホッとしたような表情を浮かべてカルキを見ていた。

…だが一方でクリシュナは怪訝そうな表情でそこに立っていた。
クリシュナ「…」
どうやら何か納得のいっていない事があるらしい。
クリシュナは鋭い瞳を細めて、笑うカルキを睨みつけているようにも見えた。

カルキ「…僕、疲れたので…そろそろ部屋に戻りますね。」
欠伸をする素振りを見せるカルキ。
それにアイラが頷いた。
アイラ「うん、おやすみ。」
カルキ「ではお先に失礼します。」
カルキが三人に背を向ける。

コツンッ。
ゆっくりとした動きで去って行くカルキの後ろ姿を、その場に残された三人は無言で見送った。


やがてカルキの姿が校舎に消えて見えなくなると、日向が声を上げた。
日向「…じゃあ俺達も寝るか。」
その言葉にアイラが頷く。
アイラ「そうだね。」
クリシュナ「…」
日向「ほら六道(大)。そんな所に突っ立ってないで早く部屋に戻るぞ。」
クリシュナ「…うん。」
クリシュナは小さく答えた。
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